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ミューくんのあしどりは迷いない。サキくんもリッターくんもなにも云わないし、俺は小走りに三人についていく。
ちょっと振り向いて、リッターくんが俺の腕を掴んだ。引っ張ってくれる。「ありがと」
「ああ」
「リッターくん、いいの、アーフィネルくんは」
「バイオータンケ嬢に頼んで、我が家へ連絡を。証人と、兄たちふたりを呼んでもらった。傭兵協会からも、あの手の契約にくわしい者を呼んでくれたそうだ」
それならなんにも心配ないな。
ミューくんが楽しそうな声を出した。「それにしても、今日はいい天気だ! こっちになら忌々しい俺の親族は絶対に来ないし、どうせだから、ジーナの弓の腕がどれだけ上がったか、見せてもらいたいな。俺をないがしろにして鍛錬していたくらいだから相当に上達しているだろう。俺も、彼女に成長したところを見せたいもんだけど、残念なことになんにも進歩しちゃいない」
「ミュー、気を鎮めて」
「なんだよサキ、俺はなにも、彼女に怒ってるんじゃなんだ。彼女の家族に腹を立ててるだけさ」
ミューくんは明るく云って、前方を指さした。「ほら、彼女、頑張ってるぜ」
ジーナちゃんが居た。傍に、侍女さんがふたり。
ジーナちゃんは、ななめ横にしてつかうタイプの弓を左手に持って、遠くを見据えている。多分、木を的にしているのかな。黒いヴェールは、ガーネットのヘアピンで留めてある。ドレスは青が勝った白で、立襟、ゆったりした袖は手首の辺りですぼまっている。引き摺る裾。ベルトをして、腰に矢筒らしいものをふたつつけていた。
「ジーナ!」
ミューくんが笑顔で、手をぶんぶんと振った。伝糸での連絡は巧くいっていなかったみたいで、ジーナちゃんがびくっとこちらを見る。ジーナちゃん達が居るところまで、50mくらいあった。
ジーナちゃんは弓をおろす。侍女さん達がさっとジーナちゃんの前に立った。
ミューくんがもの凄い形相でそれを睨んだ。
「ジーナ、昨日はおどかして悪かったって、こいつ謝ってたよ」
ミューくんはリッターくんを示し、にこにこしてジーナちゃんへ近付いていく。ジーナちゃんは戸惑っていた。「ミュー……?」
「こいつ、マオさんの真似をしたんだよ。アーフィネルさんを身請けして、ルモ嬢へ渡したんだ」
「ねえ、ミュー、どうして怒ってるの」
「君らしくない愚問だな。そりゃあ、君が粗末に扱われてるからさ」
もう少しでジーナちゃんへミューくんの手が届く、くらいの距離で、侍女さん達が肩を寄せ合ってジーナちゃんを背後へ庇った。ミューくんはすっと表情をなくす。
「なにかな?」
「お嬢さまへ触れないでください」
「お嬢さまは」
「触れるな、だって? お前達こそ、ジーナをまもれもしないで、なにが侍女だ。はじを知れ」
ミューくんがそう云って、侍女さん達を押し退け、ジーナちゃんのドレスの袖を掴む。「ミュー」
「逃がさないよ」
ミューくんがジーナちゃんのヴェールを、乱暴にむしりとった。
ジーナちゃんはあおざめている。短い髪を乱して。
感想ありがとうございます。はげみになります。
リッターは誤解されるようなことばっかりするので、書きながらもどかしいのですが、好きになってくれるひとが居て嬉しいです。
判じものと当てものは、クイズとかなぞなぞみたいなやつです。




