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どうでもいいことを考えていたら、私兵のひとりがおずおずと云った。
「あのう。どなたかにご用なのでは?」
「あ-、いえ」
あ、でも、ジーナちゃんの侍女さんに報せたほうがいいかな。ラスターラ兄弟にも。
俺が、ミューくんがジーナちゃんに会いに来るかも、と私兵ふたりへ説明した時だ。ミューくんが門を潜って歩いてきた。
ミューくんが怒っているのは解った。存在感がもの凄い。多分、あの状態のミューくんに立ちはだかる人間は居ない。余程の胆力でもない限り。
それを、ミュー、と焦った声を出して追いかけてくるのはサキくんだ。更に後ろに、リッターくんが居る。
私兵ふたりが怯えた。ミューくんはきざはしの前で停まり、にこっとする。「いつもご苦労さま。ジーナにとりついでもらえるかな」
「は……はい」
いちもにもない。私兵は決して逆らわず、素直に伝糸でどこかへ連絡する。サキくんが追いついてミューくんの腕をとった。
「ミュー?」
「サキ、俺の目は節穴だったよ」
ミューくんはサキくんへ笑みかける。サキくんは一瞬、見蕩れる。
「ミュー……」
「目の前に答えがあったんだ。なのに気付いてなかった。なあ、ジーナがあんなふうに、男みたいにごてごてと髪を飾ったことがあるか? しかもかすみ草なんてさ。まるで触るなと云わんばっかりだ。実際俺は、彼女の首から上に触っちゃいないよ。彼女、俺の手をがっちり握って、どうしても触ってほしくないみたいだったからな。それくらいは鈍い俺にだって解る。でも、かすみ草や髪どめの位置がずれるのがいやなんだと思ったんだ。彼女はそう云うの、とても気に病むからさ」
リッターくんが追いついた。ミュー、と云うが、ミューくんは無視で、自分の腕を掴むサキくんの手を軽く叩く。
「ああ、本当に、俺はなんて愚かなんだろうな。どうしてジーナが俺なんかを見捨てないのか解らないや。いや、流石にジーナは俺に呆れてるだろう。今度こそ愛想尽かしされたかもな。それでリッター、お前どうして気付いた?」
リッターくんは答えるか迷ったみたいだったが、ミューくんに見詰められて口を開いた。今のミューくんに異議を唱えられるひとが居たらつれてきてほしい。逆らったら体を蒸発させられそうな気がする。
「以前の彼女とはあし運びが違った」
「そうか。炯眼だな」
「あの」
私兵が云う。「エンバーダート嬢は、裏庭で、弓の鍛錬をなさっているそうです」
「ああ、彼女、弓を買い占めたって云ってたっけ。解った。そちらへ行ってもいいのかな」
「はい……」
「じゃあ、俺が行くと伝えてくれ」
ミューくんはにっこりして、どこかへ歩いて行く。サキくんとリッターくんが追った。勿論俺も。




