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ジーナちゃんと初めて会った時を思い出した。みぞおちくらいまでの髪をさらりと揺らして、ジーナちゃんは綺麗だった。
ジーナちゃんは両手で顔を覆う。髪の毛は不格好に短い。耳がぎりぎり見えないくらいだ。
ミューくんがジーナちゃんを抱き寄せた。ジーナちゃんは小さく嗚咽している。「どうしてなの、ミュー、あなたには見せたくなかったのに」
「そうだろうな。君の綺麗な髪を損ねたやつは誰だ」
ジーナちゃんが顔を上げる。「なにもしないって、やくそくしてくれる?」
「無理だね。俺は何人か殺したくてうずうずしてるんだ。特に、君の家族なんか、今の気分にぴったりだよ」
「わかってるのね……」
ジーナちゃんは、ぎゅっとミューくんを抱きすくめた。「なら、あなたを放さないわ。わたしの傍に居て、ミュー、お願い」
ミューくんが息を吐く。侍女さん達が膝をついた。
髪を……髪が短くなったのを、隠してたのか。ジーナちゃん。でも……。
「あ」
思わず声が出た。口を手で塞ぐ。そうだ。結婚適齢期の女性は、髪を切る。一応婚約関係もしくはそれに準じた関係であるふたりの、女性のほうが髪を短くすると云うのは、結婚が近いと云っているのと同じなのでは。
リッターくんが云っていたのは、これか。ああ! ハーヴィくんも云ってたじゃないか、もうすぐ結婚するのじゃないかって。ジーナちゃん、ヴェールを被らないで来たんだ、きっと。じゃあ、ユラちゃんが拾った帽子も、髪が短いのを隠す為? ジーナちゃんが六月くらいからミューくんに姿を見せなかったのも、髪が短くなったから?
ミューくんは歯を軋らせた。
「君のご両親はまったく素晴らしい。挨拶にうかがわなかったのは失礼だったな。一緒に行かないか? ジーナ?」
「いやよ……あなたが怪我をするところは見たくない」
「ちょっと我慢してくれれば、二度と舐めた真似はしないと約束させてやる。これは俺に対する侮辱でもあるんだぞ。君にこれ以上負担をかけるのなら、俺にも考えがあると、散々忠告はした。一度や二度じゃない」
「ごめんなさい」
「君が謝るなよ」
「いいえ、いいえ、あのひと達にはなんにも解っていないの、あなたを怒らせちゃいけないって解っていないの。だから、堪忍して頂戴、ミュー。あなたになにかあったら……」
ジーナちゃんはしゃくりあげ、ミューくんは鼻で笑う。
「俺は平気だってば……」
「平気じゃないわ、ほんの少しの怪我だってしてほしくないのよ!」
ジーナちゃんが喚いた。吃驚した。ジーナちゃんがこんなに大きな声を出すなんて。
「……解ったよ。君のご両親にはなにもしない」
「ほんとう?」
「ああ」ミューくんは優しく、ジーナちゃんの目許を拭った。「今のところはね」




