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「えーっと」
俺は笑いを怺えようとする。巧く行かない。
「じゃあ、……丸く収まったってこと?」
「収まってないよ」
アーフィネルくんが俯いたまま、云った。リータちゃんが困惑げに兄を見る。「兄ちゃん?」
「俺はリータも祇畏士さまも騙したんだ」
アーフィネルくんは、レニルヴァさんへ顔を向ける。「呆れたでしょう? 俺のことが好きだなんて幻想から、さっさと目を覚ましてください。あなたは祇畏士として幾らでもいい縁談がある」
また、こじれるようなことを。
「はいはい!」
俺は手を挙げる。みんなの目が集まった。場違いに暢気な俺の声と動きに、リッターくん以外は虚を突かれたような感じ。
「アーフィネルくん」
「……なに、マオ?」
「レニルヴァさんは祇畏士だけど位を持っていないし、ディファーズ内でなら、高位のお家は高位のお家同士での縁談になるんじゃないかな。ロヴィオダーリ家と縁続きになるのは現状最上級の縁談だと思うよ」
「でも、俺は娼妓をやってた。そのことでなにか云われるのは我慢ならない」
レニルヴァさんが身をかたくした。俺はぐいーっと首を傾げる。アーフィネルくんてば、素直じゃないなあ。
「なに、にやにやしてるの」
「今のは誰にかかってるの?」
「え」
「自分じゃなくて、レニルヴァさんでしょ。もと・娼妓の夫を持ったことを揶揄されるのは我慢ならない、って、云いたかったんじゃない?」
アーフィネルくんは黙る。レニルヴァさんは、俺とアーフィネルくんを交互に見る。「え……アーフィネルさん……」
「兄ちゃん、まだあのこと」
リータちゃんが云うと、アーフィネルくんはぱっと表情を変えた。今まで見たこともないような険しい顔で、自分の膝の辺りを睨んでいる。
「そうだよ。気にして当然だろう」
?
なんの話だろう、と思ったら、リッターくんが云った。
「そのことも賭けの条件にははいっていた筈だ。往生際が悪い」
「ろ、ロヴィオダーリ卿? なんの話ですか」
「彼は以前、落籍の機会があった」
え!
アーフィネルくんは項垂れている。「だが、相手の家が娼妓を迎えることに難色を示した。最終的に、身請け話はなくなった」
「あれは兄ちゃんの所為じゃないよ! 丁度、あの……娼妓殺しのことがあったから……」
あ。
え……じゃあ、あの時期か。去年の、十月の終わり頃。
「慥かにアーフィネルに責はない。尻込みした相手が愚かだっただけだ。レニルヴァ・ルモはそのような愚か者ではない。だろう、アーフィネル」
「それは……」
「わたし、呆れてなんかいません」
レニルヴァさんが立ち上がってきっぱりと云った。「それにアーフィネルさんに対しての気持ちは幻想じゃないです。わたしアーフィネルさんをしあわせにします!!」
まっかになって叫ぶレニルヴァさんを見て、アーフィネルくんは寸の間きょとんとする。
でも、ちょっとだけ笑った。レニルヴァさんは首をすくめる。
「あの……」
「そうですか。じゃあ、しあわせにしてもらおうかな」
アーフィネルくんはにこっとした。レニルヴァさんが鼻をぐすんといわせる。
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リッターが積極的になったのはたしかに進歩ですねえ(しみじみ)。結構おきにいりのキャラなので、活躍の場があって嬉しいです。




