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待って、と、ミューくんが右手を軽く挙げた。「リッター? 君はさっきから、なにを云ってるんだ? 大体、賭けってなんだい」
リッターくんはミューくんへ顔を向け、眩しそうに目を細めた。
「アーフィネルと賭けをした。俺は勝った。だから、アーフィネルを我が家に加え、ルモ家へ送り出す。俺の商会はルモ家と取引をし、友好関係にあると周囲に解らせる」
「うん? ……それって、アーフィネルさんが勝っていたら、どうなっていたんだ?」
「アーフィネルが叔父の養子になった。片脚を失ってからこちら、気難しくなってひとを寄せ付けない叔父だが、当てものと判じものが好きだ。丁度娘が嫁いだばかりで淋しいだろうし、アーフィネルになら喜んで介護されただろう」
なんか。
リッターくん、それって勝っても負けても、どちらにしろアーフィネルくんは凄く得してない? あれ? 違うのかな。やばい混乱してる。あんまりにも、思っていたのとは違う展開で。
サキくんが苦笑いで訊いた。
「リッター、どうも僕の知っている賭けごととは、かなり違うみたいだ。一体、なにで勝ち負けを決めたのかな」
「レニルヴァ・ルモ」
リッターくんの言葉に、レニルヴァさんはびくっとする。
リッターくんは淡々と云う。
「定めに叛した訳でもないのに、慕う同士で一緒になれないのは、おかしいと思った。だから、余計なことだろうが、レニルヴァ・ルモは国を捨ててでもあなたと一緒になりたがっていると、伝えた。だが、アーフィネルは信用しなかった。口先だけでなら幾らでも云えるし、それにそんなことをしてもらっても嬉しくない、慕う相手を窮地に追いやるつもりはないと。ふたりは慕いあっていて、壁になるのは、アーフィネルが娼妓をやっていたことと、彼女がルモ家の祇畏士であること、それだけだ。アーフィネルに強力な後ろ盾があればなんの問題もない。そして、俺にはアーフィネルをあしぬけさせるだけの金と、アーフィネルの後ろ盾になれる家がある。彼女の気持ちが本当なら、俺の云う通りに我が家へはいり、しかる後に彼女と婚姻を結べと脅した」
え? え? リッターくんいい子だとは思ってたけど、こんなに情熱的って云うかロマンチックって云うか、恋愛に関して手を貸してくれるタイプだったの? なんか意外なんだけど、でも可愛い、凄くいい子。
リッターくんはしかし、やっぱりリッターくんだった。
「慕い、慕われながら、下らぬ事情で阻まれるなどあってはならぬと、父上がよく云う。また、困っているひとをできる限り助けるのは、シアイル貴族として正しい行いだ」
啞然とするリータちゃんレニルヴァさんに対し、リッターくんはなんだか凄く満足げだ。さすがあ。
サキくんとミューくんがくすくす笑いだした。俺もだ。リッターくんは小首を傾げる。「なんだ?」
「だって。君、ジーナには随分なことを云ったんだろ」
「……ああ。俺がアーフィネルを独占したがっているところを見せなければ、アーフィネルが納得しないだろうと思った」
「君は面白いやつだな。なあサキ?」
ミューくんが尚更笑う。リッターくんは、ちょっと嬉しそうだった。




