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アーフィネルくんは目を逸らす。リッターくんはどこからか、お財布と、羊皮紙二枚をとりだした。リータちゃんが身構える。「ちょっと、幾らお金を積まれたって兄ちゃんは渡さないからね!」
「ああ。要らない」
リッターくんは平然とそう返す。リータちゃんが目を剝いた。
リッターくんは、羊皮紙をテーブルへ置く。指でとんと叩いた。
「兄のアーデルの話はしていなかったな。我が家の経済に一番貢献している。俺も商会をふたつ持っているが、今度のことでは兄に相談した」
「は? なに云ってるの」
「証人はこちらで用意してある。これに署名をしてくれれば、アーフィネルは叔父の養子になる。その上で、レニルヴァ・ルモと婚姻を結べばいい。少し時間をおいてもらったほうがありがたいが」
みんな、トゥレトゥススが流暢に喋り出した、みたいな顔をした。いや、それくらい訳の解らん情況だって。
リッターくんはもう片方の羊皮紙をとんとんとやって、レニルヴァさんへ云う。
「こちらは、俺の商会とルモ家との取引についての書類だ。ルモ家は果樹とくだものを扱っていると聴いた。俺の商会はみつろうとはちみつを扱っている。そちらの扱っているものと交換したい。これは保証金だ」
「……あ。あの? どういう、意味ですか」
「そのままだ。俺はアーフィネルを手放す。ただし、我が家へ迎えいれてからだ。先程も云った通り、シアイル以外でもロヴィオダーリの縁者にはめったなことは起こらない。あなたが行に出ている間のアーフィネルの安全は俺が保証する。誓いを立てよと云うのなら」
「ちょっと待って!」
リータちゃんが喚いた。両拳でばんばんとテーブルを叩く。
「意味が解らないんだってば! 兄ちゃんを大枚叩いて落籍かせて、そのままレニルヴァさんへあげるってこと?」
「違うな。俺のいとこにしてからレニルヴァ・ルモへ渡す。ちなみにだが、叔父の妻はレフオーブル当主の遠縁だ。アーフィネルにはロヴィオダーリだけでなくレフオーブルもついていると思ってくれていい。しかも、落籍かせたのはロヴィオダーリの嫡男だ。手を出したらロヴィオダーリが全力で潰しにかかるという脅しになる」
リッターくんは一瞬考える。
「それに、もし誰かがアーフィネルの髪の毛一本でも損なったら、実際そのようになるだろう。アーデル兄上は、よい判じものを出してくれる彼を気にいっている。耳の聴こえない兄にとって、数少ない娯楽のひとつだ。アーフィネルになんぞあったら、犯人には、ベリャックの毒でひと月くらいは苦しんでもらうことになる。途中で耐えかねて死ぬかもしれぬが、身から出た錆だ」




