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お昼前、お客さんが居ない時に、リッターくんはやってきた。
表にロヴィオダーリ家の馬車が停まる。今更だけれど、しっかりしたつくりの、お金のかかっている馬車だ。
俺は前庭側の出入り口の、すぐ傍に立って、それを見ている。食堂に今居るのは、俺、セロベルさん、サキくんミューくん、リータちゃん、レニルヴァさん、鎧を脱いだマルロさん。それ以外は、厨房で固唾を吞んでいる。
リータちゃんは、すっかりやつれてしまった。レニルヴァさんは涙ぐんでいる。サキくんは顔色が悪く、ミューくんが燕息をかけていた。マルロさんは膝の上に揃えた手でバトンを掴んでいるし、セロベルさんは鎧姿だ。万一に備えて。
馬車から誰か降りた。扉が反対にあるから、馬車の揺れで判断するしかない。暫くすると、馬車の前をまわりこんで、リッターくんとアーフィネルくんが姿を見せた。リッターくんは普段と違って、カジュアルな格好だ。大振りのビーズを連ねた髪飾り、金のピアス、シアイルふうのシャツに、夏ものの麻のローブ、黒いずぼん、短めのブーツ。剣は持っていない。
アーフィネルくんは、襟ぐりの深い、丈の短いチュニックに、リッターくんとお揃いの夏もののローブ、七分丈のズボンと編み上げサンダル。手には上品な装丁のノート。
アーフィネルくんと目が合った。しかし、互いに一瞬で逸らす。なんだかとても……気まずい。
娼妓のあしぬけ、というのは、もしかしたら本来こういうものなのかもしれない。身請けの条件として、家族と縁を切らされる娼妓も居るのじゃないだろうか。正式にはやらないにしても、二度と会わないよう云われる、とか。
「ご機嫌よう、マオ」
リッターくんは平坦な調子で云って、簡単なお辞儀をした。俺も会釈を返す。アーフィネルくんは喋らない。
俺はふたりを先導して、リータちゃんがついているテーブルへ向かった、リータちゃんはささっと目許を拭い、口をひき結ぶ。
リッターくんは自然にアーフィネルくんをエスコートして、椅子に座らせる。その後、自分はその隣へ座った。俺は、隣のテーブル、セロベルさんとマルロさんと同じテーブルへ着く。
暫く、みんな黙っている。
「なにも喋ることがないのなら、帰る」
リッターくんが突き放すみたいに云った。項垂れていたリータちゃんが、顔を上げた。「そんな」
「あなたはアーフィネルの妹だと訊いた。裾野を発つ前に会わせたほうがいいだろうと判断したからつれてきただけで、アーフィネルは来たがらなかった」
アーフィネルくんは否定しない。リータちゃんは口許をわななかせる。
リッターくんは冷たく云う。
「ジーナに説明したから聴いているだろう。俺がアーフィネルを買った。ロヴィオダーリ家はアーフィネルについて責任を持つ。彼に苦労をさせることはない。それで、不満が?」
「リッターくん、その云いかたはないんじゃないの……」
思わず云う。リッターくんはちらっと俺を見た。なんだか哀しそうに。




