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八月二十九日。リータちゃんは部屋から出てこない。ベッツィさんとターティちゃんが一緒だ。相当参っている様子だそう。昨夜遅くに、リエナさんが、ロヴィオダーリ邸にアーフィネルくんが居たことを伝えている。
ソルちゃん、ハーヴィくんと、市場から戻る。すると前庭に、セロベルさん、警邏隊の鎧を着たラールさん、マルロさんが居て、なんだか険悪な雰囲気だった。門を潜る。「あ」
「マオさん、おはようございます」
ツィーさんだ。ラールさんのかげに居て、見えなかった。ふわふわしたあしどりでこちらへやってきて、俺をぎゅっと抱きしめる。……やば、もしかして昨日私兵にペンダント見せたのがばれた?
しかしそういうことではないようで、ツィーさんはにこにこしている。
「弟におつかいを頼まれたのですよ。可愛いリッターの頼みを断れないでしょう?」
「はあ。はい」
「マオさんとはやはり気が合いますね」
両頬にちゅちゅっとされた。ぽかんとする俺を残し、ツィーさんは、では、とお辞儀して門から出て行く。
マルロさんが溜め息を吐いた。ラールさんが吐き捨てる。「生っ白いお貴族さま。トゥレトゥススにでもくわれっちまえ」
相当頭にきているようだ。セロベルさんがたしなめる。
「ラール」
「けどよ!」
「お前が南の娼妓達と親しいのは知ってる。でも、あんまり下手なこと云うと、なにされるか解らねえぞ。相手はロヴィオダーリ家だからな。しかも厄介なことに、今は裾野に四兄弟が集結してる。次男は状態異常魔法と毒薬の大家だし、三男は万能で体力特優、四男は体力が高い上に癒しの力を持ってる。長男のあいつは、生きてる人間でも還元できるって噂だ」
ええー、ロヴィオダーリ兄弟こわいよ。まじで?
ラールさんは口を噤んだが、とても不満げだ。マルロさんがセロベルさんへ云う。「警邏隊はこれ以上介入できないです」
「解ってるよ。心配ない。俺はこれでも護衛士だからな」
「……でも、マルロ、お仕事抜け出してご飯食べに行くこと、あるですよ。だから、今日もそうするかも、です」
「マルロ」
セロベルさんがなにか云いかけたが、マルロさんはぺこっとお辞儀して、通りへ出て行った。ラールさんが小走りに追う。
それを見送って、セロベルさんへ目を向けた。「どうしたんですか」
「……リッターが、こちらへアーフィネルを連れてくるらしい。シアイルへ行かせるから、最後のお別れを、だってよ、さっきの若気たやつが」
お別れ?
セロベルさんは渋面。
「アーフィネルがそうしたがってるんだと。まったく、訳が解らねえ。……それと、レニルヴァ・ルモを呼べってさ」




