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ミューくんが一歩踏み出した。お祈りを終えたのだ。
「ミュー」
「停めないで、サキ」
サキくんはミューくんの腕を掴んで放さない。ミューくんとサキくんでは体力に差がある。ミューくんは引き戻された。
「だめだミュー」
「サキ。リッターは俺の云うことならきく。それに、未婚女性の名誉をまもるというのは理不尽な頼みじゃない」
ミューくんはまだなにか云おうとしていたのに、突然口を噤んだ。そのままかたまる。
「ミュー?」サキくんが不安そうにささやいた。「どうしたの……」
「……主に感謝」
ミューくんが極く小さく云い、踵を返す。ロヴィオダーリ邸から離れるように歩き出したミューくんに、サキくんは戸惑い顔でついていく。俺もだ。どういうことだ?
理由はすぐに解った。50mくらい行ったところで、ミューくんの隣にジーナちゃんがあらわれたからだ。「ごめんなさいミュー、またあなたに呆れられるようなことをしたわ」
「君ってやつは。解っているなら自重しろ」
ミューくんはサキくんに掴まれているのとは反対の手で、ジーナちゃんのせなかを労うみたいに優しく叩いた。ジーナちゃんのヴェールは、せなか側がかなり短くなっている。髪の毛が見えないから、やっぱりまとめているんだ。
中央へはいった。俺達は無言で、木箱が並んでいる辺りへ行き、座る。サキくんは、飲みものでも買ってくるよ、と駈けていき、西瓜ジュースにブルーベリーが沢山はいったものを人数分買ってきてくれた。木製カップで、木製のお匙がさしこまれ、掬って食べるようになっている。俺達はお礼を云ってそれをうけとる。西瓜ジュースは、ジュースというかスムージーみたいなもので、食感がある。甘い西瓜に、甘酸っぱいブルーベリーがおいしい。これに白玉団子とヴァニラアイスいれたら最高だろうな。
「それで」ミューくんが半分くらい一気に飲んで、云った。「君の無鉄砲で、なにが解った?リッターのやつ、素振りでもしてたんじゃないか? それとも、魔法の練習?」
「いいえ」
ジーナちゃんはゆっくり頭を振る。「わたし、彼と話したわ」
ミューくんが、はあ?と語尾をひっくり返した。サキくんは口をあんぐり開けている。ジーナちゃんはいつも通りに冷静に喋る。
「アーフィネルというひとは慥かに居たの」
「え」
「そんな。本当なのかいジーナ?」
「ええ。でも、どうしてかが解らなかった……だから、リッターに直に訊こうと思ったの。それで、リッターがひとりになったところで、訊いたわ。リッターにだけ姿を見せると云うのも考えたのだけれど、リッターの家族に無駄な心配をさせたくないから、隠密を解いて」
幻覚を見ているとまわりが心配するかも、ってことかな。




