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なんと云ったらいいのか判断つかず、俺は曖昧に笑って首を傾げる。挨拶まわり?そんなのやるんだ。
「悪いけど、娼妓が挨拶に来ても通さないようにと云われてるんだ」
云ってから、私兵は慌てたように付け加えた。「勿論、お嬢ちゃんがたを侮って云うんじゃない。知ってるだろうが、ご嫡男さまの入山が決まってる。ご嫡男さまは堅物なんだが、あんたみたいな綺麗な娼妓を見たら入山したくなくなるかもしれない。そういうことにならないようにってことだ。下のぼっちゃんの試験も近いから、気が散るようなことはいけない」
はあ、と云うしかない。ミューくんが六回目のお祈りを終える。私兵は、ちょっとだけ気味が悪そうにミューくんを見る。気の毒そう、かな。
「この子は……ちょっと、神経が参ってるようだな」
「あ、いえ、大丈夫です」
「うむ、今じゃなきゃ、ちょっと休んでいったらどうだとすすめるところだが……」
私兵は困ったみたいに頭を掻く。
「……それにしても、きれいどころを集めたもんだなあ。一回幾らか訊いてもいいかい? 俺に出せる額なら、当番が終わったら買いに行くぜ」
むむ、こんなふうにいいひとだと、なんだか騙してるみたいで申し訳ない。俺は言葉に詰まり、そして思い出した。
収納空間からとりだしたものを鼻先へぶら下げると、私兵はぎょっとして後退った。目がまんまるになっている。
俺は、ツィーさんからもらったブラックオパールのペンダントを、ゆらゆらさせた。よかった、このひと、これに見覚えあるんだ。
「ま……まさか、それは……」
「戴いたんです。お礼にって」
私兵はぽかんとしていたが、居住まいを正し、お辞儀した。「ぶ、無礼な口をききました。ヘアツォークさまの……ご友人とは」
相当言葉を選んでくれている。ロヴィオダーリ家の私兵は、裾野の文化を尊重しているみたいだ。娼妓に対して偉そうではない。
「な、なんの御用か、うかがっても?」
「だめです」
俺はそう返し、謎めかしてにこっとした。「ついーさまとの約束なの。だから、見逃して」
多分、娼妓がなにかしらかわった趣向を凝らす、というのは、変なことではないのだろう。それこそアーフィネルくんは、当てものや判じものをするので有名だし、俺もそういった、ほかと違うことをする娼妓だと思われたみたいだ。私兵は頷く。「かしこまりました……」
「くれぐれも内密に。特に、ついーさまには」声を低めた。「どういう意味かは解るでしょう?」
そう念押しすると、私兵は首をすくめて、ちょっとだけ笑った。そのまま、持ち場へ戻る。まあ、俺が一番意味が解ってない。娼妓とお客の間の遊びだと思ってくれたらいいけど。




