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サキくんが急き込んで云った。
「それで? リッターはなんて?」
「自分が落籍かせた、と」
……ほう。
リッターくんだから、嘘ってことはないだろう。でも、落籍させたことを認めているだけだ。目的は云っていない。
娼妓を身請けするんだから目的はひとつだろう、と云われたらそうなのかもしれないが、俺はただ単に自分の私怨がもとでふたりの娼妓を落籍させた。ついでに云えば、私娼もひとり、法的にぎりぎりな手段で手許に置いている。
だから、リッターくんの考えはなんだろう、と思ったのだが、サキくんはショックをうけたみたいだ。顔色が悪い。ミューくんがサキくんの手を掴み、燕息をかけた。
「リッターは……そんな。じゃあ、どうして、家族に連絡させないんだ。リッターはそんなやつじゃない」
「わたしもそれはおかしいと思ったわ。だから、訊いたの。何故、妹さんに会わせてあげないの、と。リッターは……」
ジーナちゃんは云い淀む。云いにくいことのようで、暫く黙ってしまった。サキくんの顔がどんどん険しくなる。ミューくんがサキくんの手を優しく包み、低声で宥める。内容は聴きとれないが、ミューくんの声は甘くやわらかい。
ジーナちゃんが深呼吸した。
「そのままを云うわ。わたしでは判断できない。……買ったものを見せびらかすかどうかは買った者の自由だ。違うか?」
リッターくんらしくない。それは、三人とも思ったらしい。なにより、直接リッターくんから云われたジーナちゃんが、一番納得がいっていない様子だ。俯いて、続ける。
「わたしの聴き間違いかと思って、どういう意味なのって訊いたわ。リッターは、アーフィネルを買ったのは自分で、権利は自分にある、どうするかは自由だ、と、云ったの。アーフィネルには権利はないと。でも、おかしいでしょう。リッターらしくない。だって、その直前に、めしつかいと話していたのよ、彼。リッターの専属になったって云う、十歳くらいの子と。訓練の時に怪我を癒してほしいけれど、もしいやなら配置換えもしてもらえるって……それなのに、娼妓だけをそんなふうに扱うのはおかしいわ」
それはそうだ。俺達は頷く、ミューくんも頷いていた。ジーナちゃんは困惑げな声を出す。
「リッターは、……自分はアーフィネルを気にいったから、買った、って。アーフィネルはロヴィオダーリが安全に保護している、小ルモ家よりも安全だから、つべこべ云わないでほしい、と……」
「なんなんだ、あいつ」
ミューくんは首を傾げる。「訳が解らない。そういうことを云うやつじゃないよな、サキ?」
「ああ……でも、もう、解らない。僕には解らないよ……」
サキくんは項垂れ、片手で目許をおさえる。ミューくんがその肩をそっと撫でた。




