ジーナの冒険・2
ジーナは私兵達のすぐ傍に立っていたが、誰も気付くことはなかった。ひとりがふらりとどこかへ歩いて行く。ジーナはそれをつけることにした。
私兵と云っても人間だ。一時も持ち場を離れないなんてことはない。人間は、摂取したものを排出しないといけないのだ。
私兵は三人居たから、そのうちのひとりが用足しに立つのは、なんの問題もない行為だ。それを責めることはできない。隠密はめずらしいから、それを想定した動きをする警護担当は居ない。隠密を想定した警護、なんて、実際のところ現実的ではない。医師や熟練の癒し手をおいておけばいいのだろうが、隠密をつかっている人間がまったくの健康体ならそれも意味がなくなる。
それに、ジーナは誰にも見付からない。ミュー以外に見付かったことはない。医師であっても、ミューの両親でも、ジーナの隠密を見破れない。だって、ジーナは健康なのだ。四肢は異常なく動くし、怪我もしていない。内臓の不調もない。ジーナが病んでいるのは、精神だ。
それは、ジーナ当人には解らない。病んでいるつもりはない。けれど、ミューはジーナの隠密を見破る。だから病んでいるのだ。
ミューは、原因は環境だと云う。君にはなんの問題もない、君の周囲が異常なんだ、と。
ジーナにはよく解らない話だった。娘が親に従うのは当然だし、親の期待には応えないといけない。ミューの気持ちをとらえられないのも、ミューに結婚を確約させられないのも、ミューの親がジーナを認めてくれないのも、それはすべてジーナの責任だ。親がジーナに指図するのは、それだけジーナの能力を認めているという証でもある。だから、もっと、ちゃんと、しなくてはいけない。
わたしはミュー以外を愛しているのに。
私兵は、予想通り、用足しに立ったらしい。手洗いは屋外にあったが、用を足した後に寄り道をした。厨房で働く、簡素な麻のドレスのめしつかいをからかっている。どうやら、恋人同士らしかった。
私兵は厨房へ這入らず、その恋人が外に出てきてお喋りしている。ジーナはその脇をすり抜けて、厨房へ這入った。失敗して扉がかすかに動いてしまったが、見咎める者はない。
ジーナは、焦らない。自分の魔力については把握できる。隠密を発動できるのは、長くても後一時間と、五分かそこら。だから、それを目一杯つかう。焦ってこの邸の者の不信を招き、警護を強化されたらもともこもない。いざとなれば、誰にも見付からないようなせまいところに潜り込んで、魔力を恢復するという手もある。
ジーナはじっと待った。一分くらいで、廊下への扉が開く。見覚えのある男性だった。「誰か、可哀相な男にお茶を恵んでおくれ」
リッターの兄……だ。溜め息を吐きながら、厨房へ這入ってくる。めしつかい達が居住まいを正した。リッターの兄は耳をへたらせている。
「リッターときたら、余程あのうるわしいひとを気にいったみたいで、追い出されてしまった。今頃アーデルと三人でお楽しみだ」




