ジーナの冒険・1
ミューに謝らなくちゃ。
ジーナは走りながら、そう考えていた。祝宴で、ミュー宛の手紙を後生大事に持っていたことを思い出す。とっておくべきでないものだとは理解していた。掠めとるなんて、はずかしい。
でも、あれだけはとっておきたかった。
そのことでミューにはじをかかせた。公衆の面前で、許嫁(とほぼ同等)のジーナがほかの男性と手紙のやりとりをしている、と、一瞬でもまわりに思わせた。それは、ミューに大変なはじをかかせたということだ。許嫁が不貞を働いているのに気付いていないか、気付いていてもどうにもできない愚かな男、弱々しい男と。
ジーナはそのことをずっと後悔している。ずっと。自分の気持ちを優先させるべきではなかった。ただでさえ、ミューには迷惑をかけている。自分のような、家が金を持っているだけの、魔力の低い、ぱっとしない不美人を、ミューはもう十年以上も、仮とは云え許嫁として扱ってくれている。そして、愛しているとまで云ってくれる。ジーナはそれが嬉しくて、もどかしくて、申し訳ない。わたしはミューの重荷になり続けている。ミューの優しさにつけこんでいる。許嫁としてはミューを愛せないくせに、そんな振りをしている。
ミューは、ジーナを庇った。自分が手紙をとっておいてくれと頼んだのだと。ジーナは申し訳なくて、その後、ほとんど口がきけなかった。ミューにはじをかかせ、気を遣わせ、またしても負担になった。
手紙を焼くのは辛かったけれど、仕方がないのだ。もともと、そうなるべきだったもの。
それよりもジーナは、ミューがまた悪く云われるのではないかと、気が気でなかった。いや、自分が悪く云われないかのほうが心配だったかもしれない。ジーナが悪く云われると、ミューは本当に怒る。ミューは自分のはとこを笑いながら脅し、川へ突き飛ばしたことがある。ジーナを侮辱したからだ。次はその汚い舌をひっこぬいてやるぞ、と、冷たい水のなかでもがくはとこへ、ミューは吐き捨てていた。
ジーナは、ミューには乱暴なことをしないでほしい。それをやるのは自分の役目だ。ミューは癒し手という素晴らしい職業になる。ミューが治療に専念できるように、自分がまわりの邪魔なものを排除する。それが正しい。ミューは戦わなくていいし、こわい目にあう必要もない。怒ることもなくていい。すべて自分が肩代わりする。まもってあげたい。大切にしたい。
だから自分の今の状態を見せたくない。
「レフオーブルのお嬢さまから差しいれだと」
「おお、あのお嬢さまは気前がいいやな。おとついもなんかくれたろ?」
私兵の話す声がする。ユラはロヴィオダーリのめしつかいにも心を砕いているのね、と、ジーナは面白いような嬉しいような、くすぐったい気持ちになった。ユラにも会いたい。彼女となら、気兼ねなく云い争える。そう……彼女みたいなひとなら、ミューを任せられるのに。




