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サキくんが歩き出した。俺達はそれを追う。「サキ? どうした?」
「慥かめればいいじゃないか。リッターは、僕らに隠しごとをするようなやつじゃない」
「それはそうだけど……ロヴィオダーリ卿のやったことなら、リッターだって喋らないと思うぜ」
「だとしても、こんな状態じゃ、どんな顔してリッターに接したらいいか解らないよ」
それは、と、ミューくんは困った顔になる。ミューくんはディファーズの由緒あるお家の子だから、家の意向や親の考えに逆らうことはなかなか難しい。体面も考えるだろう。リッターくんも帝国貴族だし、面倒はいやだ親の云う通りにすると、口癖のように云っている。
サキくんには、その気持ちは半分くらいしか解らないのだと思う。自分でも、貴族と云っても名ばかりだみたいに云っていたし、親に逆らって先住民の自治区へ還元の修行にも行っている。ロアの感覚では解らないことなのだろう。
「サキ」ジーナちゃんが優しい声を出した。「待って」
「だめだよ、幾ら君の頼みだって、こればっかりは」
「わたしが見てくると云うのは、だめ?」
全員、再びあしを停める。西の大通りのすぐ傍だ。サキくんが目を瞠って振り返る。
「ジーナ、そんなことはさせられないよ」
「わたしはミューにしか見付からないわ」
次の瞬間、ジーナちゃんが居なくなった。ミューくんが走り出す。「ジーナ」
ミューくんはジーナちゃんが見えているけれど、ジーナちゃんより体力が低い、多分、ジーナちゃんが本気で走ったら追いつけない。サキくんなら追いつけるだろうが、サキくんにはジーナちゃんが見えない。俺はジーナちゃんが見えないし、体力もない。
路地に這入った。ここは覚えがある。リッターくんが風邪でダウンした時、ロヴィオダーリ邸でとり団子のスープをつくったっけ。「つぎ、右に曲がって!」
叫んだ。ミューくんとサキくんが右に曲がる。俺は一度通った道なら忘れない。ロヴィオダーリ邸への道は覚えている。
もしかしたら、ふたりはロヴィオダーリ邸の位置を知っているのかな。俺がナビゲートしたが、意味はなかったかも。でも、それくらいしないと、落ち着かない。だってジーナちゃんがロヴィオダーリ邸に忍び込んだりしたら、下手したら国際問題になるんじゃないのか。
「あった」
サキくんが云った。ミューくんは徐々に速度を下げ、停まる。「くそ、……小鳥を逃がしちまったよ」
「ああ、彼女はまったく、厄介なひとだ」
サキくんが気が抜けたみたいな声で云い、ミューくんがわざとらしく笑う。俺は必死で息を整えていた。
ロヴィオダーリ邸は静かだ。門のかげからうかがうと、玄関前には私兵が三人。ジーナちゃんは、どこからどう忍び込むつもりなんだろう。




