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「そんなのあり得ない」サキくんが喚くみたいに云った。「仮に……仮に、リッターの家族の誰かが娼妓を買ったんだとしても、それに、仮に身請けしたんだとしても、娼妓の家族になにも報せないなんてことはない。そんなの、リッターらしくないよ」
「リッターだとは云っていないわ」
ジーナちゃんは平坦な調子で返す。「リッターには兄がふたり居るし、お父さまも居るじゃない。その誰かかもしれない」
「だとしても妹にさえ所在を明かさずに邸に隠しておくなんて、おかしい!」
サキくんが今度こそ喚いた。
俺達は立ち停まる。中央の手前だ。
サキくんは肩で息をして、ごめん、と小さく謝った。項垂れて片手で額をおさえ、唸る。ミューくんが心配そうに、サキくんの上腕を軽く叩いた。ジーナちゃんは俯いている。
「ごめんなさい。憶測で話していいことではなかったわ」
「いや。僕も、過剰反応だった。ジーナの見たことは、きっと本当だよ。でも、単に、宴に呼ばれただけかもしれない。それに、アーフィネルさんは賢いから、当てものや判じものをしてみたいって、興味本位かも」
「ああ。それに、ロヴィオダーリ家を辞してから、帰る途中にお大尽に見初められたのかもしれない」
ミューくんが云った。慥かにそれはあるかもしれない。少なくとも、ロヴィオダーリ家よりは、それのほうが頷ける。だって……けもみみさん達を、ちゃんと養子にしてくれたのだ、ロヴィオダーリ卿は。その家族が、アーフィネルくんを身請けするだけならともかく、リータちゃんに連絡させないなんておかしい。
そう。アーフィネルくん当人が、自分の意思で、リータちゃんに連絡しないなんてことはあり得ない。なら、アーフィネルくんは、連絡したくてもできないのじゃないか、と、思う。
それって、詰まり、軟禁状態にあるのじゃないかってこと。いや、監禁かな。大して変わりはないけれど。
サキくんが顔を上げた。「ごめん。でも、やっぱりおかしいよ。ロヴィオダーリ家が、そんな……」
「わたしも、おかしいとは思ってるわ。でも、なにか、理由があるのかもしれない」
「君みたいに、か? ジーナ?」
ミューくんが軽い調子で云ったが、誰も笑わなかった。ミューくん自身もだ。
ジーナちゃんは頷く。
「そうね。わたしみたいに、なにか事情があるのかも。昔、お芝居で、見たことがあるの。魔物に殺された弟によく似た娼妓を身請けして、病で余命幾ばくもない母親に弟として会わせる、と云う、悲喜劇を」
「そんな事情だとしても、アーフィネルさんがリータさんになにも伝えないのはおかしいな」
ミューくんは西南へ顔を向ける。
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