1352
ジーナちゃんは寸の間黙った。
「……ミュー、わたしを気遣っているの?」
「うん? どういう意味だい、君?」
「だって。……よくないことをしたの」
ジーナちゃんははずかしそうに声を低める。「あなたの名前が聴こえたから、ラスターラ卿が誰かと話しておいでなのを、盗み聴きしたわ。そうしたら、あなたが、傭兵協会で危うく、……」
「穢されるところだったって?」
ミューくんが軽く云うと、ジーナちゃんはかすかに頷く。ミューくんは小さく笑った。「そんな大事じゃあなかったんだよ、ジーナ。俺はなんともなかった」
「でも……でも」
「よく考えてみろよ。君に嘘を吐いて、俺が得をする?」
ジーナちゃんはちょっと考えて、しないわ、と云った。それからもう一度、勢いよくミューくんへ抱き付く。ヴェールで顔は見えないが、ジーナちゃんが泣いているのは解った。ミューくんがジーナちゃんを抱きとめ、燕息をかける。
「し、心配だったの」
「ああ、解ってるよ、ジーナ。俺の失敗で君にまで迷惑かけたな」
「あなたが悪いのじゃないわ。……けさ、も、ラスターラ卿が、ミューがどうとか……云ってらして、わたし、あなたの具合が、よくないのかって……この間、あなたを見に来た時、あなた、ぜんぜん、元気がなかったから」
「そりゃあ、君を心配してた所為だぜ」
ミューくんがちょっと笑うように云うと、ジーナちゃんはひくっとしゃくりあげ、ミューくんの胸許へ顔を埋めた。
ジーナちゃんは暫くすると泣きやんだ。お茶でも、と誘ったが、頭を振る。余程、しっかりと顔を見られたくないようだ。ミューくんは大切そうにジーナちゃんの手を撫でる。目が優しい。実際、しっかり目にして、思っていたような酷い状態ではなかったのだろう。
サキくんが、眩しそうに目を細めて、ふたりを見ている。「ジーナ、僕のことは忘れてしまった?」
「……ええ、覚えていませんわ。もしかしたらって心当たりはございますけれど、まさか、サキじゃないわよね? わたしの知ってるサキは、こんなに逞しくないもの」
サキくんがにっこりした。
「君は可愛いひとだ」
「ああ、その軽口は、やっぱりサキね」
みんな、くすくすと笑った。その後、ジーナちゃんが、真剣な調子で云う。
「サキ、ありがとう。ミューを助けてくれて。あなたには、とても感謝しているの」
「友達を助けるのは当然のことだよ、ジーナ。だから、君が困っていても、僕は助ける」
「それは、光栄ね……マオ、この間は、騙すような真似をしてごめんなさい」
俺は頭を振る。
「あなたの料理、とてもおいしかったわ。わたし、でも、どうしても……」
ジーナちゃんはくすんと洟をすすった。




