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なんだか落ち着かない。
そわそわする。ジーナちゃんのことも気になるし、アーフィネルくんが心配だ。入山まで丸三日と少し。ああ、もう、どうしたらいいんだろう。
「ジーナ?」
ミューくんの声が聴こえた。
お昼過ぎ、お茶の時間まではまだ充分。俺はぼーっとビスケットを焼いていた。そこへ、中庭からミューくんの声がした。
ジーナ?
ボウルを放り出して外へ出る。ミューくんとサキくんが茫然として立っていた。ふたりの目は、ジーナちゃんをとらえている。
ジーナちゃん。去年より、少し背が伸びて、濃い紫のドレスを着ている。胸下に白いフリルがあって切り返され、スカート部分は左右に分かれてその縁にもフリルがあり、白青の太い縦縞のアンダースカートが見える。袖はふんわりして手首ですぼまり、袖口には太い白リボンで蝶々結びがつくられていた。丈は長く、くつは見えない。そして、黒いレースのヴェールを被って、真珠のピンで留め、ふんわりとかすみ草を飾っていた。
あれは……あの時の。
でも、どうして。ジーナちゃんがあの、一緒にご飯を食べた女性だったのか?
ヴェールは二枚くらいで、かろうじてジーナちゃんだと判別はできた。だが、顔色や、細かい表情は解らない。髪もよく見えなかった。ただ、まとめているようで、ジーナちゃんらしいまっすぐで長い髪の影さえ見えない。
「ミュー」ジーナちゃんの声は震えていた。「よかった……あなたになにかあったのかと……」
ジーナちゃんはそう云って、ミューくんへ抱き付いた。
ミューくんとジーナちゃんは、ベンチに座って、手をとりあい、低声で話しこんでいる。俺とサキくんは、少し離れた位置からそれを見ていた。ジーナちゃんはミューくんの両手をきつく握りしめ、離さない。リエナさんやセロベルさん、グエンくんが、厨房のなかから隠れるみたいにしてそれを見ている。リエナさんは今にも出てきたそうだった。
「ごめんなさい、ミュー、本当に……わたし……」
「いいよ、君が無事ならそれでいいんだ」
「ええ……ねえ、ミュー? 本当になんともない?」
「大丈夫だってば。一体、どうしてそんなに俺を心配するんだ?」
「だって……」ジーナちゃんは少し、顔を俯ける。「あなたが、こわい目にあったって聴いたわ。だから、わたし……ひとに頼んで、調べてもらったの。そうしたら、賠償金はたったの貝貨五枚だって。そんなの不当だわ。それに、あなた、血を流す程の怪我をしたって」
「喧嘩にまきこまれたくらいなんでもないさ」
「けんか?」
ジーナちゃんは顔を上げ、不思議そうに云う。「喧嘩って……傭兵協会で?」
ミューくんが首を傾げた。
「傭兵協会? いや、ほら、中央の辺りでさ。ワネッドとハイオスタージャだよ。また取っ組み合いをやったんだ」




