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四月の雨亭へ戻ると、レニルヴァさんが来ていた。
支度をして、ティーポットを持って食堂へ行く。
レニルヴァさんは、魂が抜けたみたいな顔で椅子に座っている。隣に祇畏士の男性が座って、宥めようとしていた。もうふたり、祇畏士と魔法職っぽいひとが傍に立っている。
「レニルヴァ、いい加減しゃっきりしてくれよ」
「だって……」
「仕方ないだろ。君は頑張った。けど、相手がほかのひとを選んだ。それは誰にも責められない。違うか?」
「……違わない」
「君は彼を愛していたんだろう。じゃあ、これから先彼がしあわせになるように、祈ってあげるべきじゃないか」
「愛していたんじゃないの」レニルヴァさんの声には張りがない。「愛しているのよ、ドルー。わたしは彼を愛してるの。過去形じゃない」
「レニルヴァ……」
ドルーと呼ばれた祇畏士が溜め息を吐いた。立っているふたりも困り顔だ。
俺はテーブルへマグを並べ、お茶を注いだ。
「どうぞ」
「……マオさん」
おしゃれな平たいかごをとりだして、お菓子を幾らか盛る。テーブルへ置いた。「レニルヴァさん、おやつ、どうぞ」
「マオさん、アーフィネルさんのこと、知ってたんですか? 知ってて、わたしになにも」
「アーフィネルくんは、妹のリータちゃんにもなにも云ってくれてませんよ。娼妓仲間に、大丈夫だから心配するなと言伝てを頼んで、それだけです」
レニルヴァさんは口を半開きにしたまま、動かない。
「それだと納得いかないので、俺達、さがしてるんです。レニルヴァさんにも、なにか、心当たりがないか、訊きたかったんですけど」
「ありません」
レニルヴァさんの目が潤んだ。「わたし、彼が好きなのに、彼のことなんにも知らない。知りやしない。ただ、可愛らしくて、優しくて、賢いひとだってことだけ。ああ……賢いひとなら、わたしなんて選ぶ訳がないんだ。小ルモ家なんてしみったれた家じゃなくて、もっと権力も財力もある、うちとは格の違う家に、歓迎されて……」
レニルヴァさんの目から、つうっと涙が流れた。
「ほんとに、このところ、変なことばかりだわ」
リエナさんは合い挽き肉・お塩・こしょう・ナットメグを逞しい腕でがしがしかきまぜながら、ぼやく。お昼のメインは、小振りなトマトをまるごとひとつ包み込んだハンバーグ、甘ーいたまねぎソース。「アーフィネルはいなくなる、ジーナは顔を見せない、おまけに、ねえ、セロベル。奉公の募集、もう三月以上ないのじゃない?」




