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実践躬行☆彡 キャラコ


 四滝伽羅子は声を張り上げていた。


「右っ、まわりこむ! よそ見せんの!!」

 走りながら、キャラコは背後へそう叫んで、ひょいと跳んだ。手頃な木の枝を足場にして、ひょいひょいと高度を上げる。30mくらいの木の一番上の枝を力一杯踏んで宙へ飛び出す。木の枝がばきっと折れた。

 キャラコは重力に逆らわず、スカートを風にふくらませて落下する。左斜め後ろから甲高い音をたてて矢が二本飛んできたが、キャラコはそれを見ずに後ろへ手を伸ばして掴んだ。魔法でつくられた火や水の塊が襲ってきたのには、どう対処するか迷ったが、キャラコはなにもしなかった。体力のある人間は怪我や病に強いのがこの世界の常識だが、魔力が高い人間は魔法への耐性が高いのも常識である。キャラコは職業加護のおかげで魔力が優だし、多少の魔法なら頑張って避けたり相殺する必要はない。しかも、連携がとれていない所為で、熱魔法と水魔法を同時につかってしまっている。

 宙でぶつかったふたつの魔法は、半分くらいになってキャラコへ到達した。事象として、水と火である。ぶつかれば小さくなって当然だ。


「ちゃんと連携とらんか!」

 木の枝を踏んで跳ねる。「ほんでこの距離やったら威力減るわ!」

 魔法は、単純ではないのだ。同じ属性でも得意な距離が違う。烙印や烈火は近距離向きで、術者から離れる程に火の勢いを失う、野火や灼爍は中・遠距離向きで、ある程度の距離までしか届かないが術者から離れる程威力が高まる。効果が高い距離というものがあるのだ。

 キャラコは二分ぶりに地面を踏み、斜面を駆け上がる。矢が飛んできたので、左手で掴みとった。左手にはすでに十本の矢が握られている。邪魔なので収納した。

 キャラコは上まで登ると、くるっと反転した。わっと悲鳴が上がる。

 キャラコは今までよりも速度を上げて斜面を下っていった。走りながら、速度を落とさず、繁みに隠れている少年の首のネックレスを引き千切る。ラピスラズリのビーズがばっと宙を舞った。

 キャラコは木かげから飛び出してきたふたりの首のネックレスも引き千切り、森のなかから魔法を打ってくる少年の杖を蹴り飛ばし、ネックレスを引き千切る。あとひとりは、弓矢だ。

 キャラコは走りながら考え、猿のように猛スピードで木に登った。村のおかみさん達がつくってくれた、フランネル地の靴下が気持ちいい。

 キャラコは予定通り、中頃の枝を蹴り折りはじめた。一本二本と次々折っていく。ひきが悪いな。

「うわあ」

 情けない声をあげて、キャラコが蹴り折ろうとした枝の上に少年があらわれた。秘匿は声をたてると効果が途切れる。キャラコは無言で少年の手を引っ張り、首のネックレスを引き千切る。それから少年を横抱きにして、13・4mの高さから落ちた。「わああああああ?!」

 あまり音をたてずに着地し、キャラコは少年を地面へ降ろす。立たせるつもりだったが、腰をぬかしたようで、少年はへたり込んだ。

「……これで全員?」

 息を整えながら訊いた。ひとりの少年が頷く。キャラコはふうと息を吐き、収納空間からとりだした黒砂糖の塊を口へ含む。「はい、食べて。水も飲んで」

 少年達にも渡す。皆、素直に口へ含んだ。キャラコは頷いて水を飲み、収納空間から矢をとりだす。三回いれたから30本くらいやろうか、と思ったが、数えてみると39本もあった。

「はい」

 へたり込んでいる少年の膝の上へ置いた。少年は目の玉がこぼれ落ちそうに目を瞠って、キャラコを仰ぐ。

「まだつかえるやろ」

「……え」

「腕はいいと思う。わたしに届いたし……でも、矢の速度が足らん。避けられるし、とれる。弓かえたほうがいいわ」

 魔法職のふたりを見た。「さっきも云うたけど、連携とって。あと、魔法の得意距離、しっかり考える」

「は、はい」

「そっちのふたりは、遅い」

 飛びかかってきたふたりだ。黒砂糖をもごもごしながら、肩をすくめている。

「遅いなら遅いなりに、考えんと。自分の得意なことを生かした戦法をとる。わたしやったからいいけど、ほんとに魔物やったら全員死んでる」

 五人とも神妙に頷いた。キャラコはくいと首を傾げる。疲れたが、休めない。「じゃあ、交代。次の組にかわって。条件は今と一緒。わたしが的」


 キャラコが昔話の格闘姫のように戦った、と云うのを、村の者は最初信じなかった。しかし、黒角の鹿の死体を見るや、態度は一変した。付き添いふたりでは絶対に不可能だから、キャラコがやったのだ、と結論するしかない、のだそうだ。ちなみに、キョウスケは村の食堂で、アルニーズとご飯を食べながら侃々諤々の議論中だった。手助けにははいれない。

 キャラコも戦えるのが証明されたが、黒角はなんだかもの凄く貴重で強い魔物らしく、それをあっさり倒したことで疑念を持たれたのではないかとキャラコは気が気でなかった。へました、また逃げなならんのじゃろうか、とはらはらしていると、思わぬところから救いの手が伸びた。アルニーズだ。

 アルニーズは、村長や村の重鎮を説得し、黒角は大勢で狩りをして捕らえたことにして出荷すると、約束をとりつけた。常識に欠けるところのあるふたりが、魔王や()()に関する資料を読みたがり、さがしている。それで、アルニーズはなんとなく、事情を察してくれているらしい。はっきりと云うことはないが。

 どちらにしても、辺境の村で、魔物の脅威には常にさらされている。下手に騒いでふたりを失うより、ただの傭兵として扱うことにした訳だ。

 しかし、それでもキャラコの強さは村のみんなの知るところとなった。キャラコは、小さな女の子達に捕まって、どうやったら強くなれるの、と訊かれるのに疲れ、日中の大半の時間を、村の外で魔物を狩ることに費やした。鹿、猪、なんだかよく解らないもの、うさぎ、サイズのおかしなりす、などをぶん殴り、蹴り、首尾よく殺したら魔がぬけるを待って収納する。キャラコが狩ってくる量はキョウスケの半分くらいだ。

 キョウスケは対大勢で無類の強さを発揮する。森や山、林のなかに自分の持ちものをばらまいておいて、瞬間移動を繰り返し、魔力が不足すれば該当なしをつかう。自分の特性を理解して生かした戦法である。一方でキャラコは、スピードと腕力でねじ伏せる戦法だ。キョウスケ程移動範囲はひろくないし、スタミナも保たない。ただし、収納空間のおかげで、獲物の運搬は楽だ。キョウスケは、担げるだけ担いで村へ走っていたらしいから。

 キャラコが黒角を倒したのはまぐれではない、と、村の少年達には解ったようで、ある日、宣言前後の年齢の子達が、鍛えてほしい、と頼んできた。


 キャラコは十分くらいストレッチをして、魔法で出した水で顔を洗い、服をかえた。くつはすぐ傷んでしまう。

 恢復魔法をかけ、魔力薬を服む。そろそろ次の子達が来るだろう。キョウスケは瞬間移動を多用した戦法だったから、それを子ども達に見せる訳にいかないし、教えることもできないからと、戦闘指導は断っていたのだ。けれど、キャラコは押しに弱いので、ひきうけてしまった。そして、ひきうけた以上は全力でやる。

 矢が飛んでくるのが聴こえる。キャラコはタイミングよく左手を出して、それを掴んだ。間をおかずに飛んできた矢を右手で掴み、どちらも収納空間へ放りこむ。次は飛び道具の子から片付けようかな、と思って、矢が飛んできたほうへ走り出した。

 キャラコはほとんど無意識に左の繁みへ向けて体を捻り、蹴りを繰り出す。かたいものを蹴った。ひょうと音を立てて飛んでいったのは、多分金属製の棒だ。

 持っていた少年が吃驚している。キャラコが反応すると思わなかったのだろう。キャラコはもう片方のあしを振り上げて、あしの爪先へネックレスをひっかけ、ぶちっと引き千切る。そうしておいて、反転し、背後からの魔法を横へ転がって避ける。竜と戦うのに比べたら、宣言したばかりかまだ宣言もしていない子どもらは、赤ん坊みたいなものだ。狙いはあからさまだし、動きはぎこちない。

 すぐに立って走り、逃げようとする魔法職の子のネックレスを引き千切った。ネックレスは本物の宝石を連ねているのだが、この世界ではめずらしくもなんともない。だから、こんなふうに雑に扱える。ネックレスは命をあらわしていて、これをとられたり破壊されたら死んだとみなされる。そういうルールだ。今のところ、キャラコのネックレスには、キャラコ以外誰も触れていない。

 木を蹴って反動で横へ飛び出す。木の枝を掴んで鉄棒みたいにまわり、追ってきた少年の背後に落ちた。ネックレスを千切って、キャラコは近場の木に登る。あと何人やろ。加減が難しいなあ。


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こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
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