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ハーヴィくんの姉に一瞬激しい害意が湧いたが、俺は頭を振ってそれを追い払う。相手にするだけ無駄。ないものと思ったほうがいい。
「そうだよ。ハーヴィくん凄く痩せてる。ジーナちゃんの云う通り、もっと食べなきゃ」
「……うん」
ハーヴィくんはこっくり頷いて、ちょっと考える。
「ミューさん、あの子と結婚する予定、あるの?」
「え?」
「だって、そんな感じだったから。入山前に、結婚、できるといいね」
ハーヴィくんは、仕事が途中だった、と、微笑んで走っていった。結婚?どうしてそう思ったのだろう。
俺は釈然としないまま、厨房へ向かう。もう朝ご飯の準備は始まっていた。今日は、リータちゃんはおやすみだ。ベッツィさんが、ターティちゃんと一緒にリータちゃんの部屋に居てくれている。
アーフィネルくんの情報は、まだなにもはいっていない。ただ、東門をぬけようとしたら、警邏隊の権限であしどめできる。昨日のうちに、セロベルさんの助言で、リータちゃんがアーフィネルくんの捜索願を出したのだ。実の妹であるリータちゃんからの要請があれば、警邏隊はそれだけのことができる。
「ハーヴィさん、なんだったんですか」
できあがったトレイをワゴンに移しているミューくんに訊かれた。俺は流しで手をよく洗う。ちょっと迷ったが、隠しておく必要はない。「うん……ジーナちゃんかもしれないひとが、来てたって」
「え!」
トレイががちゃんと音を立てる。ミューくんが慌てた様子で慥かめた。中身もお皿も無事だ。ミューくんはほっと息を吐く。
「……ジーナが?」
「うん。多分、ジーナちゃんだと思う。眉が白かったって。あと、転びそうになって助けてくれて、草むしりで手が染まってるからって、拭くようにって絹の手巾を」
「ああ……それは、ジーナっぽいですね」
ミューくんは、思わず、という感じで、かすかに笑い声をたてた。ジーナっぽい、には同意しかない。俺は頷く。
「ジーナがまた来たの?」
リエナさんがお鍋を振りながら云う。今朝はマッシュルームとアスパラガスとベーコンの炒めもの、目玉焼き添えがメインだ。リエナさんは食材の詰まった重たいお鍋を両手で降っている。多分、お鍋の重さも合わせて、軽く4kgはあるのじゃなかろうか。
ハーヴィくんの話をくわしく繰り返す。ミューくんは半分苦笑いで、ジーナだな、と呟いた。
「ああ、もう、おかしなことばっかり!」
お鍋を調理台へ置いて、別のお鍋を火にかけ、リエナさんは溜め息を吐く。ツァリアスさんができあがった炒めものを、手際よくお皿へ盛りつける。「ジーナはわたし達から隠れてる。アーフィネルは可愛い妹になにも云わずにあしぬけする。なんだか、変な夢でも見てるみたい。何も彼も筋が通らないわ」




