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マイレさんのもたらしてくれた情報で、候補はだいぶ絞られたらしい。セロベルさんはリータちゃんを励ます。
「警邏隊に話は通した。井や廟にも通達は行ってる。縁切りの証文を提出した記録はねえから、お前とアーフィネルはまだきょうだいだ。安心しろ。その手の証文を出そうとするやつが居たらひっ捕まえる。そうしたら、兄貴の居場所もわかるぜ。心配要らねえからもう寝め」
「でも……」
「テレイタ。部屋へ戻って、寝ろ。四月の雨亭の亭主としての指示だ」
セロベルさんがそう云うと、リータちゃんはちょっとためらっていたが、席を立った。経理のふたりがさっと立って、リータちゃんを支え、出て行く。
セロベルさんは三人が出て行くと、表情をかたくした。「リュー、心当たりないか」
「俺は、あしを洗ってだいぶ経ちますから……でも、100枚もの貝貨をぽんと出せるのは、限られてますよ」
「帝国の侯爵以上か、ディファーズの総大司教以上ですね」
アランさんが云い、シャノさんやウイザリオさんが頷く。「総大司教の邸はレントにふたつだし、そもそも総大司教は数が少ないので……あるとしたら、枢機卿じゃないですか」
「帝国のほうがあるんじゃないか? 疎蕩者を神と認めている地域がある。極東部と南部の三分の一だ」
「その辺に領地がある侯爵以上の家は、レフオーブル、バズダー、ルフェノンくらいだろう。そのうちレントに邸があるのはレフオーブルだけだぜ。あの家の若さまが娼妓を買ったなんて聴いたことあるか?」
「当主かもしれないだろ」
「ないね。レフオーブルは娼妓に対してよくも悪くも思ってない。興味がないってとこだ。それに、あれくらいの家ならわざわざ娼妓を買わなくてもいい」
リューさんとアランさんは早口で言葉を交わし、リューさんが頷いてセロベルさんを見る。「枢機卿の可能性が高そうですね。ああ、北西部はないですよ。あの辺りは枢機卿でも質素なひとが多い。まかり間違って娼妓を買うとしても一回二回で、落籍かせることはありません」
「でも、こう云うのは病みたいなものですから」
アランさんが首をすくめた。「疎蕩者をおろそかにしている地域のひとでも、娼妓を見て、娼妓でもなんでもいいから自分のものにしたいってことはあります。無茶苦茶な大金を持ってきて、一緒になってくれなきゃ死ぬ、なんて、子どもみたいにだだをこねる御仁も居るくらい」
「でも、当てもののは賢いから、ディファーズのお偉方について行こうって気にはならないと思うんだけどな。神聖公を輩出している家でもない限り……」
リューさんが云うと、もと・娼妓組が深く頷いた。ディファーズ貴族に身請けされたら死の危険がある、というのは、娼妓間では常識のようだ。




