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猫を振り切って、街道まで逃げたところで降ろしてもらった。「すみません」
「大丈夫だったかい?揺れたろう」
バルドさんは俺を気遣ってくれる。少しのびたオレンジ色の髪が、ふわっと風にそよいだ。
マイファレット嬢がヨーくんの怪我を治療しながら、こちらを向いた。マイファレット嬢、今では傭兵等級2で、流石のツィークくんももう疑ってはいない。……俺への疑念はまだ持ってるけど。
「マオさん、気分が悪いようでしたら云ってくださいね」
「だいじょぶです。すみませんほんと、あしが遅くて」
「マオさんは依頼主なんですから、俺達にまもられて当然ですよ。ね、バルドさん」
ヨーくんがにこっとすると、顔の傷痕が歪んだ。ちょっと痛そうなのだけれど、後遺症はないらしい。
陽が昇る前にレントへ戻り、サローちゃんの工房へ行った。ヴェンゼくんがお喋りの相手になってくれるから、お薬づくりの間も楽しい。今回採ったのは完爾草で、サローちゃんは大喜びだ。
「お茶のおかわりどうぞ」
少し伸びた髪に華奢なプラチナの飾りをつけたヴェンゼくんが、お茶のおかわりを注いでくれた。ヨーくんにはにっこり笑顔付き。ヨーくんは何故か、娼妓やもと・娼妓に可愛がられる傾向にある。子どもっぽくて可愛らしいから。
「ヨーくん、泥がついてるよ。拭いてあげる」
「ありがとうございます」
「うん。じっとしててね。……はい、とれたよ」
ヴェンゼくんに手巾で顔を拭われて、ヨーくんはふにゃっと微笑んだ。こういうひねてないとこも可愛い。しかし、隣のバルドさんの目付きが冷たくなっているのには気付いたほうがいいと思うな。
俺は持参したお菓子をかじった。割れちゃった紅茶クッキーと、シナモンクッキー。「ヴェンゼくんも食べてよ」
「ありがと、マオ。あ、そうだ、リーニ、ちょっと元気になったんだって。ジルが云ってたよ」
「そうなの?」
「うん。医師に診てもらって、だいぶよくなってるって……まあ、リーニのことだから、完全に治るまでは会ってくれないだろうけど」
「そうだね……」
俺もヴェンゼくんも、お見舞に行ったのは一度や二度ではない。面会は、ラールさんなりジルくんなりに拒まれてしまうし、お薬も食べものも突っ返された。今はラールさんが、リーニくんの家に泊まり込みでお世話をしている。警邏隊を休んでいて、傭兵仕事もほとんどやっていないそうなので、尚更心配なのだが、その話を切り出すと話題をかえられてしまうのでどうしようもない。セロベルさん経由で、治療にかかるであろうお金の足しにと、幾らか貝貨を渡してもらったのだが……あの調子だとつかっていないかも。




