帝国にて 2
ユラは顔をまっすぐ上げ、自分の魔力の流れを掴む練習をしている。ここの先生達は全員ユラより優れているし、全員尊敬できる。だから、自分は貴族の娘だとか、相応の扱いをしろだとか、そんなことを喚く必要はない。ユラは弱者に優しいし、強者は敬う。ユラの考える強者は、様々な魔法を優美につかいこなし、高い魔力を持ち、その技術を惜しみなく教えてくれる者だ。
少し離れたところに居るリッターが大雑把な水の魔法について叱責されていた。リッターは相変わらずなにを考えているか解らない無表情で、小さく頷いてから座った。
批評が終わり、生徒達は解散した。ユラは隣の少年に、最初の風の魔法は悪かなかったわよ、と一声かけてやってから、砂を踏んで歩いた。レフオーブル家は幾つか別邸を持っているが、ラプラタナ邸は学校に通うのを目的につくられたから、砂浜から歩いて五分もかからない。海に面しているから掃除が大変だそうだ。
すっとリッターがやってきて、ユラの数歩後ろを歩いた。「リッター、なによあんた、あの百雷は?制禦がなってないんじゃないの」
「お前こそ魔力をこめすぎだ」
「煩いわね」
片手をリッターへ向けて、風の魔法でおしのける。リッターは無表情だ。
ユラはふんと鼻を鳴らし、魔法をとめた。「あんた、サキに返事したの」
「した」
「ミューからは返事は?」
「来た。ジーナと連名で」
「あいつららしいわ……」
笑ってしまった。リッターはミューに忘れられたくないのか、この間手紙を送ったのだ。なかなか返事が来なかったらしいが、来たらジーナとの連名とは。
「ん」ユラは目をぱちぱちさせる。「ってことは、あいつら一緒に居るのね」
「都に居るらしい」
「へえ、巧くやってんじゃないの。ま、ミューなら、ある程度の無理は通せるわよね」
本で読んだことはあったが、あの特殊能力が実在するとは。裾野で実際目の当たりにしたあと、数日は夢に見た。勿論悪夢だ。
砂浜の端、岩場で、ヤーヌを先頭に侍女が三人待っている。ヤーヌはにこにこしていて、ユラにくつを渡す。「ありがと、サーパルティルク夫人。今日はなあに」
「小豆のお菓子ですわ」
くつをはいたユラは満足して、顎を上げる。リッターが別の侍女からくつをうけとり、はいた。
岩場へのぼり、目の前の邸へ這入る。邸の外観にまったく飾り気はなく、灰色の灯台のような円筒形の建物に、同じく灰色の三階建ての棟がくっつき、その反対側に平屋がくっついている。窓は潮風対策で、総木製だ。
まず、平屋部分でゆあみだ。ユラは風呂というものが嫌いである。侍女達に手伝わせてさっさと済ませ、部屋着をきこんだ。綿地のドレスとタイツに、絹地のローブだ。髪は乾かして、ふたつに括った。




