帝国にて 1
レフオーブル領、南東部、ラプラタナ地域。
南と東は荒れ地、北には海があり、西の峡谷は夏の八十八日間しか姿をあらわさない。それ以外の時期、ラプラタナ地域は周囲から断絶され、その所為かシアイルのなかでも独特な風習や文化が育まれ、船での往来が盛んになった今でもそれは息づいている。
ラプラタナの第一の産業は、真珠だ。世界の真珠の94%がラプラタナで収穫される。ラプラタナのものは大きさや色も豊富で、なおかつ傷が少なく照りが素晴らしく形がいい。細工士が扱いたがる真珠だ。
第二の産業が、かつおぶしと昆布である。昆布の加工はほかの領でも行われているが、かつおぶしをラプラタナ程大規模につくっている地域はない。なにしろかつおぶしに関する仕事は領府のものであり、詰まりそれに従事している人間は地方官である。待遇はいいから、皆なりたがり、それでかつおぶしづくりが盛んなのだ。
ラプラタナ地域は、原生林や険しい山、溶岩で表面を覆われた平野など、厳しい自然が多く残っている。人間が暮らしているのは、ラプラタナ地域全体の、二割にも満たない。だが、そういった環境が真珠を生み、かつおぶしや昆布の味をよくすると考えられており、あえて山野を切り開こうとする住民は居なかった。
ラプラタナ地域独自の風習といえば、魔法の訓練だ。ラプラタナ地域の出身者は総じて魔力が高い。それははるか昔からで、ラプラタナにはシアイルに現存する最古の学校がある。といっても、有志が近在の子どもに魔法を教える、と云うゆるいもので、学舎もない。ラプラタナでも海に一番近いメティというまちの、砂浜に集まって、授業は行われる。
その授業には、シアイル各地から、何れ魔法系職業に就こうとしている若者がやってくる。家が貴族でも農家でも、特別待遇は一切なし。全員同じ教程をこなし、こなせなければ免状はもらえない。
その授業を、ユラは今年もうけに来ていた。
「ユラ、熱の魔法の制禦が甘かった。お前は年を越すとここでの教えを忘れるようだ」
「はい、申し訳ありません先生」
「しかし、ことしは去年よりましだ。まわりへの配慮が見えた。成長したな」
「ありがとうございます先生」
ユラは丁寧にお辞儀をし、先生が頷いたので砂浜へ腰を下ろして、あぐらをかいた。おろした髪が砂の上にふわっとひろがる。動きやすいよう男物の服を着て、裸足だった。
1m程離れて隣の少年が立ち上がり、先生の批評をうけている。相当誉められていたが、少年に誇らしげな様子は一切ない。どころか、叱られたように項垂れ、首をすくめていた。ユラとは段階が違い、簡単な訓練をうけただけだからだ。ユラやそれより上の訓練まで進んでいる者らを目の当たりにして、多少はあったであろう魔法への自負が打ち砕かれたのだろう。




