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なかへ這入った。子ども達も一緒だ。普通の家っぽいが、食堂であろう部屋には大きなテーブルはなく、古色のついたじゅうたんが敷かれ、不格好な背の低い棚が壁際にあった。棚と反対の壁に、羊皮紙が貼り付けてある。詩と覚しいものが、綺麗な字で書きつけてあった。それから、なんとなく場にそぐわない、立派な剣と短めの槍。壁に立てかけてある。
マイファレット嬢が庭への通用口を開く。そよ風が気持ちいい。棚は、一番下の段に粗雑な紙がたっぷり詰まっていて、まんなかには本が数冊、上の段には鉛筆や、インクつぼ、ペンが並んでいる。バルくんが鉛筆を二本、紙を十数枚ひっ掴んでとり、鉛筆を一本俺にくれた。それからじゅうたんの上へ座りこんでいる。どうやら、詩を書き写しているみたいだ。
アーレンセさんと目を合わす。「……塾ですね」
「ああ……そうですねえ」
そうか、塾だ。ヴェーティヨンさん、塾をはじめたってこと?
ヴェーティヨンさんが椅子を二脚運んできた。どうぞ、と、俺とアーレンセさんにすすめてくれる。
「あの、ここは?」
「学び舎というか……まあ、簡単な読み書きや、計算を教えるくらいで、たいしたことは。子ども達に、自由に遊んでもらえないかと考えまして」
「親御さんがお仕事で、昼間お家から出られない子も居ますの。ここならお兄さまとアエッラが居ますし、送り迎えもできますから」
塾、と云うより、託児所とか、幼稚園みたいな感じか。へえー。
あ、カンザル家からのおわびを一度つっぱねたのも、ここを買う為?それでも足りなくて、ヴェーティヨンさんは髪を切った、のか。男性の長い髪だもん、御利益ありそうで売れるのだろう。
ヴェーティヨンさんはにこっとした。「本当は、昼の食事くらい出したいのですが、流石にお金がありません。休憩もかねて、外で食べてもらってます」
それで、マイファレット嬢と子ども達が、中央辺りに居たんだな。成程。
ん?
「お金がないって、じゃあ、ただなんですかここ」
「ええ。たいしたことは教えられませんから」
「あの本は、市場で安く買ってきましたのよ」
マイファレット嬢は嬉しそうだ。「アエッラ、沢山、値切りました。全部まとめて銀貨30枚でしたわ」
それは破格の安さだ。……じゃなくって、ただ?ただで託児所やってるのか。
マイファレット嬢は胸を張る。
「わたくしはそれなりに戦えますわ。ですから、バルドネスちゃんとお兄さまから離れなければいいと思いましたの。武器も用意いたしました。これなら安心です」
なにその超理論。ああ、やっぱり頭がちょっと残念だ、この子。でも、それでいいんじゃないかな。実際強いみたいだし。
収納空間から、宝石のついたヘアピンを沢山とりだした。ヴェーティヨンさんは髪の一部をあみこみにしているが、飾りが乏しかった。「どうぞ」
「え」
「寄付です。つかってください。これはいい取り組みだと思います」
ヴェーティヨンさんは小首を傾げたが、ピンをうけとって、髪に挿した。




