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本屋さんへ行こう、と思い立ったのは、次の日のお昼だ。封印のことを調べたいし、祇畏士や魔王についてくわしく書いてある本をさがしたい。店員に訊けばなんとかなるかもしれない。
だから、お茶の時間までに戻るつもりで、四月の雨亭を出た。心配だからとアーレンセさんがついてくる。
本屋さんは、中央付近に何件かある。どこに行こうか迷って、屋台のパンケーキを木箱に座って食べていると、大声で呼ばれた。
「まおにいちゃん!!」
そちらを見る。バルくんだ。子どもがほかにも数人。バルくんの友達だろう。
バルくんは、マイファレット嬢の手をひいていた。
お互い会釈する。マイファレット嬢はにこにこしていた。
「マオさん。ごきげんよう」
「……引っ越しはやめたんですか?」
「お兄さまと、色々、考えましたの」
マイファレット嬢はバルくんを見る。「それで、とてもいいことを思い付いたのですわ」
「いいこと?」
「まおにいちゃん、いっしょにあそぼ」
手を引っ張られる。パンケーキの残りを口に詰め込んで、立った。子どもの頼みは断れない。
「うん。なにして遊ぶの?」
「じ!」
じ?
バルくんに引っ張られるまま歩いて行った。アーレンセさんもパンケーキを慌てた様子で食べて、遅れないよう小走りについてくる。バルくんやマイファレット嬢が住んでいるアパート方面だ。子ども達もぞろぞろついてきた。笛吹き男みたい。
「バルドネスちゃんは、お友達とは離れたところにお家がありますから、それが淋しいとよく云ってましたの」
「はあ」
「それで、お兄さまが、解決策を。カンザル家からおわびをたっぷり戴きましたので」
「ここだよ!」
バルくんがぴょんと跳ねた。指差すものを見る。
アパートの斜向かいにある建物だ。小さめだけれど門があって、奥に二階建ての建物がある。
前庭へ這入った。立派な楠や、胡桃、ぶながあって、胡桃には縄がかけられ、木の板がぶらさがっている。ぶらんこだ。
建物は、近くから見ると傷んでいた。窓が枠ごと外れそうになっていたり、扉も歪んでいてぴっちり閉まらないらしい。ヴェーティヨンさんが屈み込んで、蝶番の様子を見ていた。
「お兄さま」
「ああ……おお、マオさん」
ヴェーティヨンさんが立ち上がる。絹糸みたいな金髪は、なんと、ばっさり短くなっていた。
「あの……」言葉が巧く出てこない。「……髪」
「見苦しい姿を見せてしまいましたね」
そう云いつつも、ヴェーティヨンさんは楽しそうだ。「かなりの長さだったので、いい値で売れました。カンザルからのお金では、少々足りなかったので」
「足りないって……」
「ん?アエッラ、説明していないのか」
「まあ、わたくしったら、肝腎のことを云い忘れていましたわ。マオさん、ここはまなびやですの。バルドネスちゃんも通っていますのよ。ねえ、バルドネスちゃん」
バルくんは嬉しそうに、うん、と頷いた。




