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「そうだ、セリィさんから聴いたぜ、マオ」
「ん?」
「マオと好い仲の祇畏士さまって、収穫の帰りに助けてくださったかただろ?よかったじゃん」
パウンドケーキが気管にはいった。咳込む。セロベルさんなに余計なことを云ってくれてるんだ。
ハーバラムさんが目を耀かせる。「なんだい、その面白そうな話」
「ああ、マオが危険な目にあうと、その祇畏士さまが颯爽とあらわれて、危機から救ってくれるんだって。ああ、祇畏士みならいさまだったな。祇畏士になってないのに滅却ができるんだ」
「へえー、もの凄く優秀なおひとじゃないの!」ハーバラムさんは手を叩き、嬉しそうだ。「マオ、いいひとをつかまえたねえ」
「ち、違いますって。ほーじくんは、その、ちょっとかわった子で」
「かわりもん同士でいいじゃんか。村のみんなにもちゃんと伝えとくからな」
「だっ、だすとくんっ」
「にしても、すっごいねえ、祇畏士になってないのに滅却がつかえるなんて。封印もつかえるようになるんじゃないの?」
封印。
咳がおさまってきた。封印って、本に出てきたっけ。
ダストくんがにこっとした。「それ、セリィさんも云ってた。封印ができたら凄いよな。魔王がたっても安心だよ」
もう一回激しく咳込んでしまったが、直前の咳がぶりかえしたと思われたみたい。セ-フ。
本にはくわしく書いていなかったが、かつて魔王がたった荒れ地に近い村で生まれ育ったふたりには、封印は常識みたいだ。
ただ、くわしい区分は知らない。恩寵の最上級魔法、とか、そのひとつ下の魔法、とか、祇畏士の追加の職業加護、とか、単なる特殊能力、とか、色々説はある。実際つかえるひとがこの何百年あらわれていないから、よく解っていないみたいだ。
でも、効果ははっきり解っている。文字通りの封印。魔につかれた者を封印するのだ。
「その場に?」
「さあ?」ダストくんはおかわりのパウンドケーキを手掴みで食べる。小指以外にはまった金やプラチナの指環が、バターでべたべたになるのを気にする様子はない。「消えちまうらしい」
「きえる」
「ああ。封印ってのは、滅却できない場合につかうものなんだ。途轍もなく強い魔物だと、滅却できるくらいまで弱らせることが難しい。そういう時、祇畏士さまでも特に優れたかたが封印をつかえば、あら不思議、魔物は綺麗さっぱり消えちまう」
「いつかは解けちまうものらしいけど、封印された魔物は弱ってるって話だよ。封印できる期間は、祇畏士さまの能力値に拠るらしいねえ」
「へえー……」
あ、なんか、こわい。封印、こわい。滅却は一発で殺される感じでそれもこわいけど、封印はじっくり殺される感じじゃん。ほーじくん、そんなのつかえるようになるかもしれないの?
ああ、どうしてそんなことになるんだよ。仲好くできないじゃないか。




