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「おなやみ?」
今日は休みだと云うアーフィネルくんは、かごを棚へ並べるのを手伝ってくれた。マイファレット嬢のことがひっかかっているのがもろに顔に出ていたらしく、そう訊かれる。
「なやみって程じゃないけど……」
「まあまあ。ほら、娼妓に愚痴をこぼすのははずかしくないよ。云ってよ」
アーフィネルくんの軽い調子に、俺はつい、マイファレット嬢のことを話した。恨まれるのを覚悟しているのはいいが、それで殺されても仕方ないと考えているらしいのはなんだか腹が立つ、と。
アーフィネルくんは首を傾げる。
「マオってやっぱりいいやつだな」
「なにが?」
「ふふ。まあでも、解るよ。慥かに、さらわれたり、殺されたりしたひとに、落ち度はないもんな。理由があったら仕方ないって考えは腹が立つ。それに、そのお嬢さんは度が過ぎてる」
「そう、それ」
それだ。それを云いたかった。反省するのはいいけれど、あそこまでになるとそれはもう卑屈に見える。度を越している。
「でも、引っ越さないんじゃないかな」
「どうして?」
「母親の仕事がある。次に越したところで別のひとに迷惑をかけるかもって考えてもいるだろう。あと、話を聴く限り、そのお嬢さんは引っ越したくないみたいだからね。バルドネスくんと離れがたいだろう」
「……そっか」
それなら別にいいや。うん。経緯はどうであれ、結果がよければそれで。気を付けてたって犯罪にまきこまれることはあるし、その時に注意が足りないって云われたら腹が立つってだけだ。
アーフィネルくんをお茶に誘った。厨房のテーブルで、リータちゃんと並んで椅子に座り、アーフィネルくんはくすくすしている。
「やっぱり変だよ。リュー、アラン、君ら西で鳴らしたじゃないか」
「ここは北だぜ、当てものの」
「そうそう、俺達はよそ者なんだから」
「リューさん達も通り名があったの?」
かごを編んでいるふたりが顔を上げた。顔を見合わせ、ぷっとふきだす。
「あったよ」リューが笑いをこらえながら云った。「酷いやつがね。アランは可哀相に、はやあしのなんて云われてた」
「仕事が済んだらさっさと帰るののなにが悪いんだって話だよな。そういうリューは、大剛だった」
「ああ、ありゃ不名誉だ。一回ろくでもないやつにあたっちまって、どうにも我慢がならなくて突き飛ばしたら、巧い具合に窓から転げちゃって」
「えっ」
「一階だったからさ。たいして怪我もしなかったんだけど、娼妓に刃向かわれるなんて思ってないだろ?吃驚したのか、その後は大人しかったね」
「こんなふうに、たった一度のことでも通り名はついちまうんだ。当てもののは毎度のことらしいけれど」
アーフィネルくんはくいと顎を上げる。
「判じものもやるよ」
リータちゃんがくすっとして、アーフィネルくんも笑った。




