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マイファレット嬢は目を伏せる。
「わたくしが仕返しされることも考えられます。ですから」
「それはおかしいですよ」
兄妹が揃って俺を見る。「だって、悪いのはカンザル家でしょ」
「ですがまきこんでしまいましたから」
「わたくしには、恨まれる理由がありますし」
「理由があったからって無茶苦茶なことしていいんですか?だめですよね。それに、マイファレット嬢、それは失礼です」
「しつれい?」
小首を傾げるマイファレット嬢に、俺は云う。
「綺麗で可愛いと云う理由でさらわれたひとも居ますよね」
「……それは」
「理由があれば罪を犯していいってことですか?」
「違いますわ」マイファレット嬢は頭を振る。「でも、わたくしは、恨まれて然るべき」
「恨むことと、恨んであなたを害するのは別です。恨まれるのを甘んじてうけいれるのは立派な姿勢だと思いますが、その結果害されてもいいというのは違う」
盗めるようなところに置いてあったから盗まれても当然だ、とか、丈の短いスカートをはいているから痴漢に遭ったんだ、とか、その手のそしりは許容できない。マイファレット嬢は、口を半開きにしてかたまっている。ヴェーティヨンさんは戸惑い顔だ。
そうだよ。理由があろうとなかろうと、手を出したやつが悪い。だから、手を出したらまけなんだ。やられてもやり返さずに逃げればいい。先にやったほうが悪いのに、やり返したら両成敗になる。
だから、俺がマイファレット家にさらわれたひとだったら、仕返しはしない。被害者になっただけでも大変なのに、加害者にはなりたくないから。
それに。
「マイファレット嬢」
「……はい」
「バルくんはあなたに懐いてます。バルくんからあなたをとりあげないでください」
マイファレット嬢は泣くような笑うような顔をした。
呼ばれたので、厨房へ戻る。そりゃあ、仕返しにまきこむかもと考えるのは解る。でもきりがない。引っ越すったって、お金もそんなにないだろうから、レントを出ることは難しい。近場の農村へ移住しても、仕事がなかったらどうしようもないだろう。そして、完全にひととの関わりを絶つには、深山幽谷にでもこもるしかない。それができるだけの技術が、マイファレット母子にあるとも思えない。
だから、品行方正にしているしかないのだと思う。たとえ誰かが仕返しに来ても、仕返しをためらうくらいいいひとになるしか。
マイファレット嬢、自分で云っていたじゃないか。それでゆるされるとは思っていないが、これからはひとに優しくする、と。
ああもう、ままならないな。あんなにバルくんを心配して、人目もはばからずに大司教の家に押しかけることのできるマイファレット嬢は、しんから悪い子ってことはないと思うのだ。なら、折角仲好くなったバルくんから、わざわざ離れなくったっていいじゃないか。




