1026
話は単純だった。要するに、ストーカ。ヴェーティヨンさんとかつて婚約していたカンザル嬢がやったこと。
婚約解消の理由は、ヴェーティヨンさんの体調不良だった。まあ、毒の所為だった訳だけれど、カンザル嬢は泣く泣く結婚を諦めていた。でも、ヴェーティヨンさんが恢復したら結婚できる、ヴェーティヨンさんもその気持ちでいる、と信じていた。
で、マイファレットの閉門、ヴェーティヨンさんの復活だ。カンザル嬢は今こそ結婚をと、ヴェーティヨンさんへつかいを出した。
でも、ヴェーティヨンさんにしてみれば、マイファレット家は不名誉な理由で閉門し、自分はディファーズへも戻れない。カンザル嬢と結婚しても、ディファーズへ戻ることはできないのだ。それに、母や妹から離れることはできない。
しかも、幾ら犯罪者と云え、実の親や兄弟が荒れ地に送られるのを待つ身だ。結婚なんて到底できる心情ではない。
不名誉な理由で閉門したマイファレット家と縁付いてもなにもいいことはない、と云って追い返したが、すぐに別のつかいが来た。そのつかいが持ってきたカンザル嬢の手紙に、ふたりの仲を裂くようなあなたの家族なんて捨ててしまえばいい、もし気が咎めるのなら自分が手をまわして排除する、とかなんとか書いてあった、のだそう。
ヴェーティヨンさんはそれで怒った。どうしようもなく話が嚙み合わないカンザル嬢と結婚することは不可能だと判断して、家族があろうがなかろうが結婚はできないとつかいを追い返し、母と妹にはカンザル家とは関わらないようにと云った。でも、排除云々は、閉門に家族の荒れ地おくりでただでさえ心労のあるふたりをこわがらせたくない一心で、伝えなかった。
「云ってくれたら、お兄さまから離れませんでした。お母さまやアエッラを排除すると公言するひとが、お兄さまに危害を加えない保証はございません」
「ああ、それはわたしの誤りだ。体が満足に動かないことを忘れていた。かっかきていたからな」
「マオさん達が来てくれなかったらと思うと、もう……」
マイファレット嬢はふるふる頭を振る。
「あの、じゃあ、カンザル嬢のやったことだったんですか」
「はい。彼女のめしつかいがやったことで、カンザル卿ははじめ知らず……ですが、妹のやったことを知るや、わたしを脅して。バルドネスや、母や妹の命が惜しくば、逃げようとするなと。閉門した家の人間がひとり失踪したところで誰も気にかけはしませんから、わたしを閉じこめておくつもりだったようです」
事後従犯だったのだな。すぐにふたりを解放すれば、大事にはならなかったと思うのだが。
兄妹は目を交わし、小さく苦笑する。「バルドネスちゃんにはこわい思いをさせてしまって。……また迷惑をかけないように、引っ越しますわ」
「え」




