雀躍!ぷりんせす☆彡 キャラコ・ヨタキ
四滝伽羅子はスキップしていた。
ウォードの家から、レントの西にある宿に移って、一週間あまり。宿の名前は銀の花亭と云って、驚いたことにディファーズで泊まっていた宿の系列店だ。裾野は、裾野の外からの人間に寛容だから、よその出身者が商売しているのはめずらしくないらしい。
レントへ移って、まだ体を休めている頃に魔物の襲撃があったが、警邏隊がすぐに制圧してくれた。警邏隊というのは、傭兵のなかでも優秀で素行のいい者を集めた、警察のような集団らしい。キャラコはベッドに横になって、外の騒ぎにどきどきしていただけで、被害はなかった。
その後、傭兵全員に、無償での魔物討伐依頼が協会から出された。これはうけてもうけなくてもよく、強制ではないが、やることによって傭兵等級が増えやすくなるらしい。図書館利用にはこの傭兵等級が関わるらしく、キョウスケは魔物狩りにでかけることもあった。傭兵等級が大きくないと読めない本があるらしい。図書館員が相当厳しく、融通をきかせてくれるはずがないとか。
一方でキャラコは、床上げはしたもの、魔物と戦う気力はなかった。魔物の襲撃は還元過多によるものらしく、レント内から一掃しても、外にはうようよしていたのだ。
でも、キョウスケが魔物を狩ったり、図書館へ行ったりしている間、ぶらぶらしているのも落ち着かない。ストレッチや筋トレを欠かさずしていても、体は鈍ってきていたし、こわくない肉体労働はないだろうかとさがしていた。
そうしたら、あったのだ。
魔物が這入りこんで暴れ、それを傭兵達で倒した為に、壊れた建物が多くあった。特に、レントの東側には被害が集中している。死者がないのが不思議な程の壊れかたをした建物が、襲撃のその日から修理され、或いは完全に壊されて撤去され、している。
この世界のひと達は逞しいし、実際的だ。つかえるものはつかう。
キャラコは襲撃の翌日、銀の花亭の門のまわりに大工と覚しいひと達が集まっているのに気付いた。門の裏側が一部壊れていたのだ。ぴんと思い付いて、そちらへ走り、手伝いを申し出た。重そうな木材や、大工道具があったから。
キャラコは収納空間を持っているが、鈍った体をベストな状態へ持っていくのが目的だから、それはつかわなかった。親方の指示通りに走り、木材を担いで戻り担いで戻りした。木材の皮を剥いだり、形を整えるのも手伝った。手斧は適度に重く、長時間それをつかって作業していると、前腕がぶるぶる震えてくる。把持力を鍛えるのに丁度いい。
キャラコは親方に気にいられ、次の日も作業を手伝って、なんと給料までもらった。荷運びと下働きだけ、なので、修理に携わっている大工よりは少なかったが、それでも銀貨4枚だ。キャラコはそれからも毎日、木材を担いで走りまわった。銀の花亭の門が修理されても、キャラコは大工を手伝った。壊れている建物は沢山あった。東側に集中していたけれど、図書館も襲撃されたそうだし、東に限ったことではない。
キョウスケとは、朝と夜、業務連絡のような会話をするだけだった。キャラコは一日々々、体が動かしやすくなっていくのが楽しくて、木材運びに没頭した。襲撃で壊れた建物の修理が終わると、キャラコは親方に頼まれて、レントの外の村へも手伝いに行った。
還元過多による襲撃、というのは、流通や、ひとの流れも停めてしまうものらしい。手伝いに行った村では、数日前までレントで興行していたサーカスがあしどめされて、ただで演しものをしている。村人だけでなく、村の警護に来ている警邏隊も、それを見て楽しそうに手を叩いたり、笑ったりしていた。木材を運んで整えてしまうとキャラコにはできることがない。親方はにっこりして、見てきていいぜ、と許可してくれた。キャラコはだから、弾むあしどりでサーカスを見に行った。
スキップで辿りついた広場には、即席で舞台が設えられ、小柄で痩せた女の子達が軽業をしていた。髪をひっつめ、全員同じ顔に見えるようにメイクして、服も同じだった。舞台上を跳ねまわっている。動きがはやいので、正確に何人なのか、キャラコには判断がつかない。
演技が終わると、女の子達はさっとはける。多分、六人?
次は合唱だった。男女混声で、年齢も様々な八人が、キャラコの知らない綺麗な歌を歌っていた。途中、魔法をつかった派手な演出がある。音の小さい花火みたいなのを幾つも打ち上げたのだ。観客がわいた。
これかもしれん。
キャラコは夢心地でそれらを見ていた。ディファーズでは無理だと判断したが、裾野でならできるかもしれない。アイドル。サーカスという手があった。
合唱が終わり、小さな女の子と、大きな熊が出てきた。熊による曲芸だ。女の子は、真っ黒の髪を長く伸ばし、前髪ぱっつんで、可愛らしい。短いプリーツスカートに、太いボーダーのニーハイソックス、袖のないシャツにネクタイ。シルクハットを被っている。こちららしくない格好だが、サーカスなのだし、奇抜な格好をするのは当たり前だ。
熊はとても賢い。といっても、そこはサーカスだから、演出として熊がいたずらをしたり、女の子に逆らったりはする。いうことをきかないとご飯はなし、と女の子が脅すと、熊が前肢で頭を抱えるのがとても可愛い。
女の子は、十歳くらい……だろうか。熊に客席をまわらせ、舞台上で揃ってお辞儀した後、にっこりして云う。「コマとマルグニシェンでございました。失礼いたします」




