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「災難だったな、マオ」
警邏隊の馬車にのせてもらって、俺とダストくんは四月の雨亭へと戻る途中だ。咽が渇いたし、おなかもすいていたので、収納空間からとりだしたマグに注いだマサーラーチャイをすすっている。ダストくんと、同乗の警邏隊にもあげた。
「災難なのはバルくんと、べーていよんさんだよ」うー。巧く云えないな。「さらわれて」
「まあな。手、大丈夫か」
「うん。治療してもらったから」
ぐっぱっとやる。馬車にのる前に、警邏隊の癒し手に治療してもらったのだ。たいした怪我でもなかったし、もう傷痕もない。
「なんだったのかな-」
「さらわれた理由?」
「うん。聴けなかったから」
ヴェーティヨンさんは毒の所為か、体の動きがとてもぎこちなかった。喋るのも辿々しかったし。
「マイファレットの次男といいかわしてたって云う、カンザルの長女がやったんじゃねえの」
「じゃあ、そんな、いきなりさらわなく……あ」
「なんだよ」
「マイファレット嬢が、家が閉門になってすぐ、カンザルからつかいが来て、お兄さんと話してたって。でも、帰った後お兄さんの機嫌が凄く悪くて、カンザルの人間が来たら逃げろって云ってたって」
「じゃあ、決裂した訳だな。話し合ってだめならさらっちまおうってことだ」
そんな極端な。
馬車が停まり、降りる。門からセロベルさん夫婦が飛び出してきた。ハーバラムさんもだ「マオ」
「ダスト!」
「ダスト坊」
ダストくんがハーバラムさんとセロベルさんに飛び付かれて辟易している。
リエナさんが俺の手をとった。
「マオ、あなたってどうしてこう、無茶をするの!」
「あはは。すみません、ご飯もつくらないで」
「大丈夫よ。リータもツァリアスも居るから。そんなことより、なにか食べて。あなたのことだからおなかがすいてるんでしょ」
見透かされている。俺は苦笑いで、リエナさんに引っ張られるまま歩いた。ダストくんもセロベルさんとハーバラムさんに引き摺られてついてくる。
リエナさんの用意してくれた朝ご飯(アスパラガス・ベーコン・きのこのこしょうたっぷりバター炒め、パセリをのせたかぼちゃのポタージュ、焼きパインアップル、レアディさんとこのパン)を食べながら、掻い摘まんで説明した。食べ終わると、バターやお豆腐、麺類、干ししいたけや切り干し大根を収納する。今朝、俺が居ない間に来たレアディさん達から、リエナさんが買っておいてくれたのだ。干ししいたけはたまにしか売ってくれないから、とってもありがたい。買い損ねたら死んでも死にきれない。
「カンザル卿……って、慥か大司教よね?セロベル」
「ああ。資産はたいしたことねえが、今のカンザル卿の母親は、前々神聖公の縁続きだぜ」
「そんな家が、まさかひとをさらうなんて」
そんな名家なら、損得じゃなく、恋愛感情のもつれ、のほうが納得いくな。




