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「はーい」
エヴィさんが戻ってきて、ファルさんが恢復魔法をかける。ファルさんの恢復魔法は威力が低いみたいで、エヴィさんの手は指が何本か変な方向に曲がってしまったままだ。痛いらしく、ふうふう息を吹きかけている。
「ファルさま-、朝ご飯なにがいいです?」
「貝のぶどう酒蒸し」
「昨夜もそれだったでしょ」
ファルさんは肩をすくめ、剣をしゅっしゅっと振った。「じゃあ、とりのロースト、レモン塩で」
「解りました」
「朝食の時間に遅れないよう、とっとと片付けよう」
はっとカンザル卿が笑う。エヴィさんがよいしょと云って、壁の前に立った。
「ファルマディエッシャ、なにをばかな、酒に溺れていたお前になにができる」
「灼爍」
ファルさんの持つ剣の辺りから、音を立てて炎が噴き出した。ほぼ同時にエヴィさんが壁をぶん殴って壊す。外からごおっと風がふきこんで、炎の威力が増す。
向こうの誰かが水魔法をつかったみたいで、炎が消えた。が、カンザル卿は眉毛が焦げている。そして、みっともなく震えていた。
「な、な、な、」
「酒を断ったらもとのように魔法をつかえるようになってね。ロヴェリナーナ、忘れっぽいんだな?熱の魔法でお前が僕に勝てたことが?」
ファルさんが私兵へ斬りかかる。私兵は避けるだけだ。持っていた杖は熱魔法で消し炭にされてしまったし、鎧も一部溶けている。
ファルさんは暫く頑張っていたが、疲れたのか手を停めた。「おい、エヴィ、腹が減った。はやく帰ろう」
「ここから出られますよ」
「お前は可愛いだけじゃなく、役立つなあ」
「面倒くさいひとだな。マオさん、マイファレット嬢、こっちからどうぞ」
エヴィさんはこともなげに云い、自分が最初に外へ出た。ファルさんが続く。俺達もだ。前庭だった。カンザル卿はわなわな震えていたが、私兵を伴って追いかけてきた。
「ファルマディエッシャ、きさま!」
「きさま?」
地を這うみたいに低い声がする。「わたしの弟をきさまなぞと罵る輩は誰だ」
ファルさんとエヴィさんがげっと云う顔になった。
はたして、石畳をゆっくり歩いてきたのは、ラスターラ卿だった。一歩遅れてダストくんと、警邏隊。
ファルさんが剣を仕舞った。「マーゴ」
「ファル、怪我は?エヴィも大丈夫か」
「大丈夫です」
エヴィさんはぱっと両手を後ろへ隠す。ラスターラ卿が溜め息を吐いた。
「そうかそうか、おいたをしたんだな、エヴィ、わんぱくぼうず?」
「えーっと、えへへ」
「ということは、誰かがファルを傷付けようとした訳だ。よしよし、解ったぞ。カンザル卿、いつまでも肩の上に頭がのっていると思うなよ」
ラスターラ卿が鬼の形相でカンザル卿を睨み、右手を振り上げた。ファルさんが正面から飛び付き、エヴィさんがラスターラ卿の口を塞ぐ。「マーゴ、マルグスウェンダー、落ち着いてくれ」
「ごめんなさいラスターラ卿!」




