1022
カンザル卿、は、大柄で、がっしりしていて、慥かに顔がてかてかしていた。短めの杖を持って、前には大きな盾を両手で持った私兵、隣には剣をかまえた私兵、背後にも得物をかまえた私兵が数人居る。
「これはどうも、ラスターラ家のろくでなし、穀潰しのファルマディエッシャ。お前をここで殺しても、ラスターラ卿は困らんだろう」
「マーゴは優秀だから困らないさ。でもあいつは優しいし、僕のことを愛してるからな。僕が殺されたら咎人を地の果てまでだって追いかける」
「役立たずのお前に裂く労力はあるまい」
「役立たずだって?僕だって火の番くらいはできるんだぞ、なあ、エヴィ?」
「ファルさまはなんにもできなくたっていいんですよ。居るだけでいいんだから」
エヴィさんは顔を引き攣らせている。「ファルさまを卑しめたな。ぶつ切りにしてだしをとってやる」
もの凄い脅しをかけて、エヴィさんが飛び出した。大盾をむんずと掴んで、持っている私兵ごと壁へ叩きつける。壁に穴が開いた。ファルさんが云う。
「悪いな、カンザル卿、僕の愛しいエヴィは少々……怒りっぽいんだ。おおいエヴィ、そこまで怒らなくってもいいじゃないか」
「ファルさまを悪く云っていいのはラスターラ卿だけです」
エヴィさんはにべもない。私兵が斬りかかったが、軽ーく避けて、剣を蹴る。と、分厚い剣がぽっきり折れた。持っていた私兵は啞然とする。カンザル卿もだ。
ファルさんが折れた剣を蹴って退けた。私兵達が前に出てきて、カンザル卿を背後へ庇う。
「お前も充分悪く云っているだろう」
「そうでしたっけ?」
「とぼけるな。お仕置きしてやるぞ」
できないくせに、と、エヴィさんはにっこりして、私兵へつっこんでいった。
「エヴィは料理人だけど、僕の護衛でもあるんだ」
私兵を三人、鼻を殴ってトマトを握り潰したみたいな顔にし、なおも両手をぶんぶん振りまわすエヴィさんを見て、ファルさんが云った。「僕だって戦えるのだけれど、兄さんが心配する」
「当然ですわ」マイファレット嬢がバルくんを抱え直す。「ファルマディエッシャさまになんぞあったら、ラスターラ卿に申し訳がたちません。どうぞ、無理をなさらないでくださいまし」
「うむ、そうは云っても、これは僕がはじめたことだから」
ファルさんはちらっと俺を見て、ヴェーティヨンさんの腕を肩から外す。頼む、と云われたので、ヴェーティヨンさんに肩をかした。ヴェーティヨンさんは浅い息だ。
「どうも……めいわくを」
「いえ。きっとすぐ、癒し手に治してもらえますよ」
ファルさんが剣を抜く。「エヴィ、それ以上やったら手が大変なことになる。後は僕がやるから、お前は料理の為に手を大切にしろ」




