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 衛兵二人が床に倒れて呻き声を上げる。

 殴る蹴る投げ飛ばすの暴行を受けたことにより、彼らの戦力は完全に消失していた。

「これに懲りて、二度と変な陰謀には係わらないことだ。もっとも、この先、監獄から出られるかどうかはわからないけどな」

 衛兵たちに縄を掛けながら、ギスランは説教をした。

 一方のブランディーヌは、アリナから絶賛されていた。

「あなた、そこら辺の男どもよりも強いじゃない! とっても格好良いわ! 素敵よ!」

 次々と飛び出す誉め言葉に、ブランディーヌはまんざらでもない顔をしている。

「おい……あの女は何者だ?」

 ギスランの横で衛兵を縛る手伝いをしているルイ=ノエルは、ひとりで二人の衛兵を倒してしまったブランディーヌを化け物でも見るような視線を向けた。

「パンテール騎士団の騎士だ。こんななまくらな男ども、彼女の敵ではない」

「衛兵だって、精鋭だぞ? それがこんなにあっさりと……。噂には聞いていたが、パンテール騎士団とは猛者の集まりなのだな」

「いや、ただの脳筋の集団だ。あと、俺は違うぞ」

 勘違いをされる前にギスランは訂正した。

「それより、こいつらはどうする? 倒したのはいいが、これでは次の刺客がやってくるだけなんじゃないのか」

 王女が狙われたからという理由でブランディーヌは衛兵を倒したが、雑魚は捕まえたところで捨て駒だ。

「首謀者を吐かせればいい。おい、誰に頼まれたのか言え」

 ルイ=ノエルは自分のすぐ目の前にいる衛兵に命じたが、目を閉じて呻くだけだ。まともに答える気が最初からないようにも見える。

「いまのうちに首謀者の名を言えば、刑を軽くしてやるぞ」

 居丈高にルイ=ノエルは命じるが、衛兵は二人とも返事をしようとしない。

「そんな生温い尋問で答えるような奴はいないと思うぞ」

 衛兵を縄で縛り終えたギスランは、ルイ=ノエルを無視している衛兵を見下ろした。

「こいつらは付け上がっているから、少々手荒く訊ねた方がいい」

「手荒く? どうするんだ?」

「適当に痛めつけるんだ。任せろ」

 胸を張って意気揚々とギスランが請け負うと、そばで聞いていたブランディーヌが口を挟んだ。

「ギスランの拷問って時間をかけてじわじわと口を割らそうとするから、無駄に体力を消耗させるだけよ。もっとすぱっと、今すぐ答えなければ殺すぞくらいの勢いで迫らないと駄目だって。ちんたらしていたら、その首謀者とやらがまた殿下に刺客を送ってくるわ」

「団長みたいなことを言うな」

 騎士団の団長デュモンは気が短い。拷問のようなことは面倒だと言って、すぐに答えなければ殺すと脅すことが多い。別に虚仮威しでもなんでもなく、相手が答えるつもりはないと返事をするとすぐに殺そうとするので、副長や周囲の騎士が慌てて止める羽目になるのだ。

「殿下だけでなく、イローナ殿も狙われているんだから、その衛兵はどこかに片付けておくべきじゃないかしら。それか、なにか罠を仕掛けて首謀者をあぶり出すような……」

 言いかけたブランディーヌは、王女付きの女官が扉を開けた途端に顔色を変えて閉めようとしたことに気づいた。

「ねぇ。なんで逃げるの?」

 閉まりかけた扉と壁の間に足を挟むと、素早く女官の腕を掴んで、作り笑いを浮かべた。

「あ、あの……わたくし、女官長に報告して参ります」

「なにを?」

 女官の腕を引っ張ると、ブランディーヌは相手を部屋の中に引きずり込んだ。

「暴漢が衛兵を倒して王女を殺したって報告するつもりだったの? その暴漢は廃嫡されたルイ=ノエル王子に似ていたって言うつもりなんでしょう? 念のために、王女の傷がどのていどか確認して、その剣を凶器に仕立てるつもりだったのかしら」

 掴んでいない方の女官の腕をねじり上げると、袖口から短剣が零れ落ちた。

「ファニー! まさかあなたまで!」

 ブランディーヌに捕らえられた女官が落とした証拠に、アリナは真っ青になった。

「どなたに頼まれたか、言いたくなければ言わなくていいわ。わたしは女性に乱暴を働くのは好まないから。でも、言わない限りはこの手を放さないわよ」

 にこやかにブランディーヌが告げると、女官は戸惑ったように相手を睨む。

「次の刺客がいつくるのかは知らないけれど、刺客と戦う際にもこの手は放さないから覚悟をしてね。もしかしたら敵の剣があなたを傷つけるかもしれないし、あなたが殺されることになるかもしれないけれど」

「脅したって無駄よ。私はなにも言うつもりはないわ」

 きっぱりと女官は告げた。

「脅しではなく事実よ。でも、教えて欲しいことはあるわ。あなた、イローナ殿に刺客が差し向けられたかどうか、知っている?」

「知っているわ」

 薄く口元を歪めると、女官は意地の悪い笑みを浮かべた。

「彼女は今日の午後には殺されることになっているわ。王子の名を語った手紙が彼女の元に届けられ、彼女をある場所に呼び出すの。ひとりでのこのことそこに現れた彼女は、待ち伏せていた者に殺されるの。その際、やはり犯人は王子ということになるのよ」

「あら、それは大変。じゃあ、イローナ殿のところにいかなければ」

 べらべらと女官が喋ってくれたおかげで、ブランディーヌは次の行動を即座に決めることが出来た。

「ギスラン、その男たちはオクタヴィアンに渡してあげたらどうかしら。わたしはイローナ殿のところに行くわ。アリナ様、エルブロンネル伯爵邸の場所をご存じですか?」

 女官を掴んだままでブランディーヌが訊ねると、アリナは慌てて首を縦に振った。

「まさかあなた、ファニーも連れてエルブロンネル伯爵邸に行くの?」

「もちろんです。放してしまっては危険でしょう。でも、他の衛兵に引き渡しても、その衛兵が首謀者と繋がっている可能性もあります。いまは誰が味方で誰が敵なのかわからない状態ですからね。誰も信じられないのであれば、自分だけを頼りに行動するのみです」

「私も行くぞ」

 ルイ=ノエルが主張した。

「イローナの身に危険が及ぶというのであれば、阻止しなければ」

「わたくしも行くわ!」

 アリナも言い張った。

「イローナがこんなことに巻き込まれる羽目になったのは、そもそもが王家の王位継承問題なのだとすれば、わたくしは彼女を保護する義務があります」

 そんな義務はないだろう、とギスランが止める暇はなかった。

「わかりました。別に着いてくるのは構いませんが、王子様は足手まといになったらすぐに見捨てますよ。襲ってきた刺客に殺される羽目になっても、助けませんからその覚悟できて下さい。アリナ様はわたしがお守りします」

「お前、私とジュヌヴィエーヴで扱いが大きく違い過ぎるぞ」

「当然じゃないですか」

 なにを今更、とブランディーヌはルイ=ノエルを見た。

「もし首謀者が判明して、その一味を一網打尽にしたら、廃嫡された王子様が復位されるかもしれないじゃないですか。そうなると、アリナ様の護衛官として任命されるはずだったわたしはお払い箱です。でも、もし王子様が亡くなっていたら王位を継がれるのはアリナ様です。その際には、わたしは護衛隊の隊長になれるんです」

「ちょっと待て。なんだ、その勝手な事情は。そんな自己都合で私は見捨てられるのか」

「だって、わたしたちは護衛隊に採用されるという話でわざわざ王都まできたんですよ。それが、実は王子様が廃嫡されたのは、王位を狙う一味による陰謀だったとか、首謀者が捕まって事件の真相が明らかになれば王子様は復位して王太子に戻ってしまう可能性大とか聞かされたら、その首謀者の方の計画に半分は荷担してあげてもいいかなって考えてしまうんです」

「わかった。謝礼は出す」

 あっさりとルイ=ノエルは折れた。本当にブランディーヌには見捨てられそうだと感じたようだ。

「私が王太子に戻ったあかつきには、私のできる範囲で礼金を払う。それでどうだ」

「礼金ですか。でも、護衛官として定年まで勤め上げた際の方がきっとたくさんお金は入ると思うんですよね」

 金だけを考えると、毎月定期的に給金が入る方が有り難い。

 それに実家の財政は厳しいが、借金があるわけでもないので、多額の金がすぐに必要なわけでもない。

「そういえば、アリナ様は王位を継いだ際には、女のわたしでも爵位が継げるように法律を変えてくださるという話でしたが」

「わかった。法律を変えよう」

 すぐさまルイ=ノエルは条件を呑んだ。

「では、王子様の身に危険が及ばないよう善処します」

 満足げにブランディーヌは約束した。

「もう少し考えてから返事をした方が良かったと思うぞ」

 胸を撫で下ろしているルイ=ノエルに対して、ギスランが忠告した。

「法律を変えるまでには、老獪な宰相や大臣たちを説得しなければならないだろう。それに、彼女が爵位を継げるようにするには彼女の父親が生きている間に法律を変えなければならない。別に彼女の父親も明日や明後日のは命ではないが、三十年も四十年も待てるような話でもない。できるのか?」

「やるしかない」

 溜息を吐きつつ、ルイ=ノエルは答えた。

「妹がやると宣言したことを、兄である私はできないとは言えないからな。宰相やオーグ伯爵がもしこの話を聞いて、私がそんなことはできないと一蹴したと聞けば、私は次の王に相応しくないと判断し、王太子に復位させないかもしれない。廃嫡されたままである可能性だってある」

「一応、この後のことは考えているわけか」

「当然だ」

 真面目な顔をして、ルイ=ノエルは宣言した。

「とりあえず、今回の件が誰の陰謀であるにせよ、イローナを妻に迎えられる希望が出てきたのは嬉しいことだ。そのためにも、私は生き延びなければならない」

 数時間前までは死を望んでいたとは思えない顔になっていた。

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