大家族と男の子 ④
いくら何でも急過ぎるのではないか、と悠人は思う。
「悠人、荷造り自分でできるわよね? そこまで荷物もないんだし」
母の自分を見下ろす目に圧倒されて、こくりと頷くと、母はそのまま部屋を出て行ってしまった。
その背中を見つめていた祖母に祖父が声をひそめて言った。
「おい、まさかあいつ、何か勘付いたのか?」
「わかりません……ただなんだか様子がおかしかったですね」
祖父が眉間に皺を寄せてウムム、と唸る。すると、いきなりゴホゴホと咳き込んだ。
「あ、あなた!」
「おじいちゃん! 大丈夫!?」
「ゲホ……も、問題ない。大丈夫だ」
祖父が口をハンカチで押さえながら、ふるふると頼りなく首を横に振る。祖父は少ししか咳き込んでいなかったのに、ゼエー、ゼエーと息を荒くしていた。
「とにかく! もしかすれば、話を聞かれていたのかもしれない。娘に秘密をするのは嫌だが、何か対策を考えよう」
「対策って? おじいちゃん」
祖父が顎に生えた白い髭をショリショリと撫でる。
「そうだな……。だが結局、最後は話し合いを避けられんだろう」
「……ねえ、悠人? わたしたちが葵と話しているところを聞いていたい?」
祖母が気遣うように問いかけてくれる。
悠人は、自分は大丈夫だと言おうとした、けれど口が動かなかった。結局、顔を下に向けて黙ってしまう。これは辛い時の悠人の癖だ。それに気がついた祖母が、悠人の頭を優しく撫でた。
「じゃあ、次にあの子が私たちのところに来る時、悠人はこの家に来ないようにしましょう」
「来ない? だが、こちらに来る時はおそらく泊まりになるだろ、悠人が家で一人になってしまうぞ。話し合いの時は違う部屋にいればいいんじゃないか?」
悠人は考えた。祖父の言うことはもっともだ。でも、正直、母と一緒にいたくないと思ってしまう自分がいる。
母は自分のことが嫌いなんじゃないか、自分のせいで離婚することになってしまったと思っているのではないか、と思ってしまったからだ。
「僕、地域看板の張り紙を見たんだ」
「張り紙?」
「うん」
悠人は記憶を手繰り寄せた。たくさんの男女が仲良さそうに手を繋いで、笑い合っている絵が描かれた張り紙だった。
最近は仲が悪い両親を持つ悠人の目には、その絵はとても眩しくうつったのだ。
「大家族体験承ります」
男の子が大家族の元へやってくることになった経緯を
回想でお伝えしました。
次回からやっと大家族との交流始まります。




