大家族と男の子 ③
「葵は何をしとるんだ! いきなりこっちに戻ってきたと思ったら離婚しただと? 理由も教えてはくれん」
「落ち着いてください。きっと何か理由が……いつか話してくれますよ」
葵ーー母は離婚した理由を話していないらしい。
悠人は不穏な雰囲気を察知して、その場を離れようとした。二人の会話を聞くまでは。
「それに……あの子も可哀想。まだ小さいのに父親がいなくなるなんて」
「あぁ……。葵に一度、仕事を見つけるまでは悠人を預かっていようかと聞いたんだ。そしたら血相を変えて預かってもらえるのはありがたいが、心配だから自分も一緒にいる、と」
悠人は祖父の言葉を聞いてまさか、と思った。ーー母は、自分が離婚の理由を知っていると、わかっているのではないか。
悠人は今度こそ、もう聞いてはならないと思い、足を踏み出した。その時、ギシッと地べたが音を立てた。
「ーーっ!」
「……誰かいるのか?」
祖父の様子を伺うような声色がすぐそこまできた。ガララ、と障子が開けられると、祖母と祖父が目を見開いた。
「ご、ごめんな、さい。ごめんなさい……」
気がつくと口が勝手に謝っていた。そんな悠人を祖母と祖父は苦しそうな顔でじっと見つめる。
「謝らなくていいんだよ、悠人」
立ち上がってそばに寄ってきた祖母が悠人を抱きしめる。祖父も悠人と祖母のことをまとめて抱きしめた。
久しぶりに感じた人の温もりに安心して、自然と涙を流す悠人を見た祖母と祖父は、顔を見合わせて頷き合った。
「ねえ、悠人。もしかして何か知ってるの?」
「誰かに言うな、とか言われたか?」
悠人は二人の優しさから、全てを話すことにした。この二人ならきっと受け入れてくれるだろうと、そう思ったからだ。
話を聞いた二人は怒りをあらわにした。
「そんな……辛かったね、もう大丈夫だからね」
「信じられん……そんな娘に育てた覚えはないぞ!」
そして二人は何やら意味ありげな視線を交わした後、「もう大丈夫だぞ」と、悠人の頭をガシガシ撫でた。
「葵に話しましょう。そして、悠人はわたしたちの家族になるの」
「……家族?」
「そうだ。じいちゃんたちと一緒に暮らすのは嫌か?」
悠人は首を振った。この二人は大好きだ。あまり会うことができないし、何より、悠人の言葉を信じてくれた。
「父さん、母さん、わたし仕事が見つかったの。新幹線もとったし、明日の朝には出発するね。物件はもともと決めてたし」
「え? 仕事?」
「そー、わたし明里と会ってたでしょ? いい感じの仕事見つけてくれて!」
「……そんないきなり決めなくても。荷物だって……」
「大丈夫だよ、貯金も少しならあるし。それに。長居したら迷惑でしょ?」
男の子の祖母と祖父、とても優しい人物です。
母と父の喧嘩や祖母と祖父の話まで、間が悪い男の子。
可哀想です。




