大家族と男の子 ②
まだ両親が離婚する前のいつかの夜。
悠人は真夜中に目が覚めた。今何時だろうと思い、からだを起こした時だった。
「いい加減にして! あなたの我儘、もううんざりよ!」
「なんだと!? 誰のおかげで食っていけてると思ってるんだ!」
リビングの方から両親の怒声が聞こえてきた。悠人は思わずビクッとして、気づかれないように襖の影に身を潜めた。
「だいたいあなたいっつも夜遅くに帰ってきて、悠人や待たされるわたしの気持ち、考えたことある!?」
「仕事の付き合いだ、何が悪い! それに悠人は……」
「悠人は何よ、悠人が何!?」
「悠人は、俺の子供じゃない!!」
悠人は襖の影で息を呑んだ。両親は二人とも自分に優しかったし、周りの親子と変わらず、幸せだった……はずだった。
察しのいい子供は、その場の空気を読んだり、その言葉の本当の意味を理解したりすることができる。
悠人も察しがいい子供だった。
「な、何いってるの? 悠人はわたしたちの子よ?」
「俺たちは二人ともO型だぞ? AB型の悠人は俺と、血の繋がりがないじゃないか!」
母親の声には誰が聞いてもわかるくらいに焦りの色が浮かんでいた。悠人は目の前が真っ暗になった。
……どうしよう、僕のせい? 僕が生まれたから?
どうしようもない考えが頭の中に次々と浮かんでは消えていく。
「それに俺は見た! お前が俺の部下と並んで歩いているのを!」
「そ、それはたまたま会って話しただけで……」
「うるさい!」
悠人はこれ以上聞いていられなかった。耳を塞いで布団の中に埋もれる。
……いやだ……怖い……。
それからほどなくして、両親は別れた。理由はおそらく母の不倫だろう。悠人はわかっていた。
両親が離婚してから今住んでいるアパートに来るまで、悠人は母親の実家で過ごしていた。母の両親、つまりは祖母や祖父と共に生活していた。
祖母の家は東北地方の田舎の古民家だ。ゲームやテレビもない。悠人は暇で仕方がなかった。だから、田んぼの中の生き物を見て暇を潰していた。
ある日、母親が高校の頃の友人と会うとかで、祖母と祖父と三人きりになった。悠人はいつも通り、田んぼのタガメやゲンゴロウ、珍しい鳥の観察に明け暮れていた。
手が田んぼの泥で汚れてしまい、家の中で洗おうと縁側に登り、歩いていた時、障子の向こう側から祖母と祖父の声が聞こえた。
大家族の家へやってきた男の子。
子供が知るには残酷すぎる事実を知ってしまった過去。
田舎の古民家っていいですよね。




