大家族と男の子 ①
わたしは今、下町の大きな家の前に立っている。
「悠人、ここが二日間お世話になるお家だよ」
「……」
わたしは俯いたまま黙る息子にため息を吐く。
わたしは今日から二日間、実家で行われる父の法事に向かわなければならなかった。うちは母子家庭で、父方の実家に預けることもできない。
連れて行けばいいだろうと思うかもしれないが、本人が嫌だと言って聞かなかったのだ。さいわい、今は夏休みだ。悠人の我儘も聞いてあげられる。
「悠人、自分が嫌だって言ったんだよ? ちゃんと大人しくお家の人の言うことを聞いてね」
ホームステイ先の人と仲良くできるかは不安だが、兄弟が多いらしいし、寂しい思いはしないでいられるだろう。
わたしは意を決して玄関チャイムを鳴らした。
しばらくして、「はーい!」という元気な声が聞こえた。扉が開くと四十代くらいの女性が出てきた。
「あぁ、もしかして今日から体験予定の悠人くんですか?」
「あ、はい。悠人の母です。二日間お願いします」
女性はわたしに向かって会釈した後、悠人に話しかけた。
……体験予定……? そんなふうに言うんだ。
「悠人くん、この家ではわたしのことはお母さんって呼んでくれたら嬉しいな」
悠人はこくりと頷いていた。
わたしは内心ホッとする。悪い人ではなさそうだし、愛想もいい。正直見ず知らずの他人の家に悠人を泊まらせるなんて嫌だったが、この人なら任せても大丈夫そうだ。どこか、そう感じさせるオーラがあった。
「ではお願いします。もう新幹線来ちゃうので」
「はい。ではまた」
チラリと悠人の顔を見ると、いつも通りの表情だった。元から人見知りはしない子だったから、それは心配していなかった。
わたしは大きな家に背中を向けて歩き出す。後ろから、「悠太くんは何歳かな?」「十歳、です」と言う会話が聞こえる。
わたしはこれなら大丈夫そうだと判断して、タクシーを呼んだ。
◇◆◇◆
「はーい、みんな! 今日と明日の家族になる、山田悠人くんでーす! 今回はお母さんの用事があって、ここに来てくれましたー!」
由紀子さんーーお母さんが僕の自己紹介をした。
目の前には五人の男女が並んで座っている。
「よろしくお願いします」
「よろしく〜! あ、わたしたちに敬語はいらないよ」
前に座っている女の人が言った。高校生だろうか、一番年長に見えた。よく見ると、全員お母さんに似ている。
ーー普段は別に我儘も言わない悠人が、頑なにお母さんについて行かなかったのには理由があった。
大家族の家にやってきたのは一人の男の子。
稀に子供だけでお泊まりしていく人もいます。
読者の皆様にも、この家族について、少しずつでもわかっていただけたら嬉しいです。




