プロローグ
ここはある下町の一軒家。長い歴史を感じる木造建築はなかなかの大きさで、豪邸とまでは行かずとも、いかにも広そう……だが、この家の主人である彼にとっては、そうも感じられない。なぜなら、人数が多いから。
「ただいま〜」
「あ、おかえり〜! そうだ、聞いてよ。あのね……」
「父さん、アイツがさ……」
「お父さん、プリント今日までって言ったのにお母さんが……」
「それはお母さんわるくないわよ! だって……」
扉を開けた途端に嵐のように押し寄せた家族たち。ギャーギャー叫んでは口々になにやら話し始める。これが彼の日常だった。
「おまえらなぁ、いい加減にしろよ。ちょっとは俺の気持ちにもなってみろ」
「え〜! でも私は……」
「悪いのはコイツだよ! あのさ……」
「そうだ、今日はね鰆がすごく安くて! 旬だし買っちゃた!」
注意を一切聞いていないのかと問いたくなるほどの変わりのなさに、ため息を隠せない。彼は「まったく……」と呟きながらリビングへ歩いていく。
「あぁ、そうだ。依頼が入ったぞ」
「ホント!?」
先程まで不満顔をしていた家族たちが目を輝かせて、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「やったぁ! 女の子? わたし、あんなのじゃなくて可愛い妹が欲しいの」
「いや、お兄ちゃんでしょ! どうせならイケメンの」
「誰があんなのよ! わたしだって可愛くて優しいお姉ちゃんがほしかった!」
「俺も兄ちゃんが欲しい! 姉ちゃんばっかでつまんねぇ!」
「なんですって!?」
この家族は七人家族。毎日毎日喧嘩ばっかり。この家族に時々訪れる、依頼者。いわゆるホームステイというのだろうか。しかし、普通のホームステイとは違うのは……。
さあ、大家族体験にいらっしゃる方はいますか?
ああ、ご安心を。わたくしどもは皆様の、本当の名前も、ここへお越しの理由も……。なにひとつ存じ上げません。
わたくしどもはどんな方でも、大家族体験承ります!
「大家族体験承ります!」はじめました。
今までは読者として、これからは小説家として書いていきます。
お読みいただけると嬉しいです。




