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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第二章:始動、水蓮ギルド。
22/31

22話「新生活」

申請書を差し出すと、琥珀さんはそれを丁寧に受け取り、

書面に軽く視線を落としてから、柔らかく目を細めた。


「……ありがとう、詩遠くん。ようこそ、水蓮ギルドへ」


その声は穏やかで、

でもどこか、ずっと前から決まっていたことのように自然だった。


その微笑みにほっとしたのも束の間、

琥珀さんはすっと立ち上がると、軽やかに言葉を続けた。


「ところで──」


「うちのギルドには、ハンター専用の寮があるんだけど、どうかな?」


「寮……ですか?」


思わず反射で聞き返すと、

琥珀さんは指を一度立てて、優しく説明してくれる。


「うん。所属ハンターは、希望すれば全員“水蓮寮”に住むことができる。もちろん家賃はタダ。

 ギルドの食堂も使えるし、各階には訓練室、研究施設、装備の整備室……全部、君たちのためにあるよ」


(……え?)


聞けば聞くほど、その“寮”のスケールが常軌を逸していた。


トレーニングルームには実戦シミュレーター。

研究階ではスキル解析から薬品調合まで可能。

防具や武器のカスタマイズも受けられる専用工房。

そして──ギルド直営の食堂。あの油淋鶏の味が、日常的に食べられるというのか。


琥珀さんは、言葉を締めくくるように、首をかしげて優しく尋ねた。


「どうする? 希望すれば、今日からでも部屋は用意できるよ」


一瞬の沈黙。


僕は──考える間もなく、即答していた。


「……住みます」


「ふふ、そう言うと思った」


嬉しそうに微笑んだ琥珀さんの顔が、

なぜかほんの少しだけ、悪戯っぽく見えた。


「そしたら、この後どうする?親御さんに一度ご挨拶しに帰る?」


琥珀さんの何気ない一言に──

僕は手を止めた。


「……いえ、彼らは僕がいなくなっても気づかないので」


一瞬、空気が止まった。


琥珀さんの表情は変わらなかった。

笑顔のまま、何も言わない。


(……高校生が一人暮らしするのに親に言わないのは、普通ならもっと聞かれるのに……きっともう調べて知ってたんだろうな)


気まずさが胸の奥にじわっと広がった僕は、

意識的に話題を変えようとした。


「あ、そういえば……っ!」


「食堂も利用できるってことは、さっきの油淋鶏が毎日食べられるってことですか!?」


その言葉に、琥珀さんは小さく吹き出した。


「ふふ……あれはね、うちの“エース”が作ったものなんだ」


「えっ……」


あまりにも衝撃的な事実に、僕は琥珀さんの顔を二度見した。


「ええっ!?あの完璧な油淋鶏を!?

 エースが料理担当なんですか!?」


「料理担当じゃないよ。たまたま彼の故郷の料理だったから、他の人には作らせたくないって買って出てきてくれたんだよ」


(……わざわざ水蓮ギルドのエースが、俺のために……くっ………)


興奮と感動で胸がいっぱいになる中、

ふと、毎朝見ているハンターニュースの映像が脳裏に浮かんだ。


「あれ……? 水蓮ギルドのエースって……」


「もしかして!!!……あの、“炎撃の暴王”の──龍炎りゅうえんですか!?」


「ああ、うん、そうだね。彼には現場でもかなり活躍してもらってるから、知ってる人は多いかもしれないね」


あっさりと答える琥珀さんに対して、僕のテンションは天井を突き抜けていた。


「いやいやいや! ハンター志望なら、彼に憧れない人なんていない程ですよ!!」


「燃え盛る業火の炎の中を突っ切るような突撃、

 小柄なのに身長の倍以上ある大剣を振り回しながら、機動力まで超一流なんて──僕、何度もテレビで見て憧れててっ……」


熱量が止まらなかった。

まるで子供がヒーローの話をしてるみたいに、僕は語っていた。


そんな僕を見ながら、琥珀さんはふっと微笑む。


「ふふ、妬いちゃうな」


どこか楽しそうに琥珀さんは軽く笑った。


「龍炎も、ここの寮に住んでるから──いずれ会うと思うよ」


その一言に、僕の胸が一気に高鳴った。


(本物の、龍炎に……会える……!)


考えるだけで心臓が騒がしくなる。

テレビ越しの存在が、いま“同じ屋根の下”にいるという事実。


(まぁ、今目の前にいる人の方がもっと凄いんだけど……)

「君はまだ新人ハンターだから、直属の上司を一人つけるよ。

 明日、また改めて紹介するね」


「は、はい!」


「今日は色々と疲れたと思うから、この部屋でゆっくり休んでいって。

 明日、寮の案内をしよう」


「……ありがとうございます」


琥珀さんは微笑んだまま、

部屋のドアをそっと開けて、静かに出ていった。


「おやすみ、詩遠くん」


「……おやすみなさい」


扉が閉まる音が“カチリ”と響いたあと、

部屋に静けさが戻った。


「………………うわぁ……」


僕はため息とも、感嘆ともつかない声を漏らしながら、

ベッドに身体を預けた。


(なんか……改めて考えると……)


ダンジョンで死にかけて、邪神と契約して、

スキルを得て、初ダンジョンに挑んで、

水蓮ギルドにスカウトされて──


(……すごいことだらけ、すぎる……)


つい数日前までは、

ただの“無能扱いされてた高校生”だったのに。


「上手く行きすぎて……ちょっと怖いな……」


でも──


今だけは、怖さよりもこれからの期待が勝っていた。


僕は毛布を顔まで引き寄せ、

ふかふかの布団にすっぽりと身を沈める。


(……明日からはもっとすごいことが待ってる……)


「……一先ず今日はもう寝よ……」


目を閉じる。


しん……と静まり返る水蓮ギルドの高層寮の一室で、

僕は深い眠りに落ちていった。


──明日から、また新しい物語が始まる。

どんな運命が待っていようとも、もう後戻りはできない。


でも──それでも。


(……僕は、ここで生きていくん

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