↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おてんば姫の世界おやつ漫遊記 ~お城を家出したら、魔物二匹と諸国を救うことになりました~  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/15

第11話 お餅、争奪戦

 餌場の設置が一段落し、祭りの準備も少しずつ本格化してきたころだった。

 神社の台所では、コハルと巫女装束の女性たちが総出で、祭りに供える餅を仕込んでいた。米を蒸す湯気があちこちから立ち上り、杵で餅を搗く小気味よい音が、境内に響き渡っている。

「リリィ様、こちらをご覧ください」

 コハルに案内されて向かった先には、木の臼と杵が用意されていた。

「これから、神前にお供えする特別な餅を搗きます。祭りの中でも、最も大切な儀式のひとつなんです」

「すごい……! 本当に伝統的な光景ね」

 わたしは目を輝かせながら、蒸し上がったばかりの米が、臼の中に盛られていく様子を見守った。

「よろしければ、リリィ様も、搗いてみますか」

「いいの!?」

 願ってもない申し出に、わたしは即座に頷いた。

 巫女の一人から杵を手渡され、見よう見まねで、臼の中の米を叩いてみる。ところが、力加減がまったく分からず、杵は狙いを大きく外れて、臼の縁を強く打ってしまった。

「あっ……」

 衝撃で、蒸し米の一部が、臼の外へと勢いよく飛び散った。

「大丈夫ですか、リリィ様」

「ご、ごめんなさい! せっかくの材料を……」

 慌てて謝るわたしに、コハルは苦笑いを浮かべながら、優しく声をかけてくれた。

「大丈夫です。最初は、皆さんそうですから」

 その言葉に甘えて、わたしは何度か杵を振るう練習を続けた。少しずつコツを掴み始めたころ、ふいに、傍らで様子を見ていたプティが、鼻をひくつかせながら、臼の方へとにじり寄っていくのに気づいた。

「プティ、駄目よ。これは神様へのお供え物なんだから」

「きゅい?」

 しらばっくれるように首を傾げるプティを見て、わたしは念を押すように、もう一度言い聞かせた。

「絶対に、味見しちゃ駄目よ。分かった?」

「きゅい!」

 力強く鳴いたプティを見て、わたしはひとまず安心し、再び餅搗きの手伝いに戻った。


 しばらく作業に集中していると、境内の方から、巫女の一人の慌てた声が響いてきた。

「お餅が……! 蔵に保管しておいた祭りのお餅が、なくなっています!」

「え!?」

 わたしとコハルは、思わず顔を見合わせた。

 急いで蔵へと駆けつけると、そこには、空になった木箱だけが残されていた。祭りの数日前から仕込んでおいた、上等な餅の数々が、跡形もなく消えている。

「一体、誰が……」

 コハルが困惑した様子で辺りを見回した、そのとき。

「きゅい、きゅい!」

 境内の奥から、聞き覚えのある鳴き声が響いてきた。

 嫌な予感を覚えながら振り返ると、そこには、口の周りに白い粉をたっぷりとつけたプティが、満足げな顔で座っていた。

「プティ……まさか、あなた」

「きゅ?」

 しらばっくれるように首を傾げるプティだったけれど、その丸々と膨らんだお腹が、何よりの証拠だった。

「あなた、全部食べちゃったの!?」

「きゅい!」

 悪びれる様子もなく、誇らしげに鳴くプティの姿に、わたしは思わず頭を抱えた。

「大変です! あのお餅は、祭りの準備で最も大事なものだったのに!」

 コハルが、青ざめた表情でそう告げた。

「ご、ごめんなさい……! すぐに、代わりを用意する方法を考えるから!」

 わたしが必死に謝っていると、蔵の裏手から、さらに慌てた声が響いてきた。

「大変です、大変です! お餅を運んでいる最中に、まだ残っていた分まで、何かに持っていかれました!」

「え、まだあったの!?」

 急いでそちらへ向かうと、案の定、少し離れた場所に、餅の欠片を口いっぱいに頬張ったプティが、また別の場所で座り込んでいた。

「プティ! いつの間に、そっちまで!」

 あまりの俊敏さに、わたしは思わず言葉を失った。

「きゅい!」

 どこか誇らしげに胸を張るプティを見て、わたしは深いため息をついた。

「もう……あなたって子は」

 その場に居合わせた巫女たちも、呆然とした様子で、事態を見守っていた。

「これは……由々しき事態ですね」

 セシルが、真剣な表情で腕を組みながら呟いた。

「祭りに必要な餅が、これで全部なくなってしまったということですか」

「はい……。今から新たに搗き直すには、時間が足りるかどうか」

 コハルの言葉に、境内全体に、重苦しい空気が広がった。

 わたしは、なんとかこの事態を挽回しようと、慌てて頭を働かせた。

「待って、まだ諦めるのは早いわ。プティが食べたのは、おそらく蔵に保管されていた分だけよね。仕込み途中の米は、まだ残ってるんじゃない?」

「それは……確かに、まだ蒸していない米は、いくらか残っておりますが」

 巫女の一人が、そう答えた。

「じゃあ、それを使って、もう一度搗き直しましょう! みんなで手伝えば、きっと間に合うはずよ!」

 わたしの提案に、コハルも決意を固めたように頷いた。

「はい、やってみましょう」

 こうして、境内総出で、餅の作り直しが始まった。

 蒸し上がった米が、次々と臼に運び込まれ、巫女たちが交代で杵を振るっていく。わたしも、先ほどよりはずいぶんと様になってきた手つきで、搗く作業に加わった。

「セシル、あなたも手伝って!」

「わ、私がですか?」

 戸惑うセシルに杵を押し付けると、彼女は不慣れな手つきながらも、真剣な表情で餅を搗き始めた。

「思っていたより、力がいる作業ですね」

「そうでしょう! でも、なんだか楽しいわよね」

 二人で交代しながら杵を振るう様子は、傍から見ると、なんとも息の合わない、ぎこちないものだったけれど、それでも少しずつ、餅は形になっていった。

 その一方で、プティは、自分がしでかした騒動を反省しているのか、していないのか、境内の隅で、満腹そうにお腹を撫でながら、うとうとと舟を漕いでいた。

「プティ、あなたも少しは手伝いなさいよ」

 わたしが声をかけても、プティは眠そうな目で「きゅう」と鳴くだけで、まったく動く気配がなかった。

「まったく、こういう時だけ役に立たないんだから」

 呆れながらも、わたしは作業を続けた。


 しばらくすると、境内の反対側から、また新たな騒ぎが起こった。

「あ! また餅が減ってる!」

 巫女の一人が、驚いた様子で声をあげた。

 嫌な予感を覚えて振り返ると、案の定、先ほどまで眠っていたはずのプティが、いつの間にか目を覚まし、搗きたての餅の山に、こっそりと近づいているところだった。

「プティ!! いい加減にしなさい!!」

 わたしは慌てて駆け寄り、プティを抱きかかえた。

「きゅい!?」

 驚いたように鳴くプティを、わたしはしっかりと抱きしめて離さなかった。

「あなたはもう、これ以上何も食べさせないわよ! 反省しなさい!」

「きゅう……」

 しょんぼりと肩を落とすプティの様子に、周囲からは、思わず笑い声が漏れた。

「リリィ様と、プティさんは、本当に賑やかですね」

 コハルが、くすくすと笑いながらそう言った。

「ごめんなさい、いつもこんな調子で……」

「いいえ、おかげで、皆の緊張も、少しほぐれたようです」

 確かに、コハルの言う通り、先ほどまでの重苦しい空気は、いつの間にか和やかなものに変わっていた。

 プティの騒動を教訓に、それ以降は搗き上がった餅を、すぐに厳重に見張り付きの場所へと移動させることにした。わたしは、プティを肩に乗せたまま、決して目を離さないようにしながら、作業を続けた。


 日が傾き始めるころ、ようやく必要な量の餅を、すべて搗き終えることができた。

「終わった……!」

 わたしは、額の汗を拭いながら、安堵の息をついた。

「本当に、間に合ってよかったです」

 コハルも、心底ほっとした様子で、そう呟いた。

「セシル、お疲れ様。杵、上手になってきたじゃない」

「姫殿下こそ、最初よりは、ずいぶんと様になっていましたよ」

 二人で笑い合いながら、これまでの騒動を振り返った。

 そのとき、これまでずっと大人しくしていたプティが、突然、何かに気づいたように、鼻をひくつかせ始めた。

「きゅい!」

「プティ、まさか、また……」

 わたしが慌てて身構えると、プティは意外にも、搗き上がったばかりの餅とはまったく違う方向――境内の隅に置かれた、供物用の果物の籠を見つめていた。

「あっちは、果物なの?」

 わたしが不思議に思って近づいてみると、そこには、祭りに供えるための果物が、山盛りに用意されていた。

 何気なく一つ手に取って口に含んでみると、ふと、これまで何度も感じてきた、あの違和感が舌の上に広がった。

「……この果物も、なんだか味が薄いわ」

「果物もですか?」

 コハルが、驚いた様子でこちらを見た。

「じつは、この果物も、村の畑で採れたものなんです。米だけでなく、こちらの実りも、あまり良くなくて」

 その言葉に、わたしはこれまでの旅で感じてきた異変が、この村の隅々にまで広がっていることを改めて実感した。

「セシル、これも……」

「はい。米だけでなく、果物にも、同じような影響が出ているようですね」

 夕暮れの境内に、静かな緊張感が漂った。

 けれど、その一方で、無事に搗き上がった餅の山を見つめながら、わたしは達成感も得ていた。

「とにかく、今は、祭りの準備を、きちんと終わらせましょう」

 わたしの言葉に、コハルも力強く頷いた。

「はい。あとは、当日を待つばかりです」

 境内には、搗きたての餅の甘く香ばしい匂いがいつまでも漂っていた。

 プティはすっかり反省した様子で、わたしの肩の上で大人しく丸くなっている。

「プティ、今日は、本当に反省しなさいよ」

「きゅう……」

 しょんぼりとした鳴き声を聞きながら、わたしは思わず、くすりと笑ってしまった。

 夕日が、境内の木々を橙色に染め上げていく。その光景を眺めながら、わたしはこの騒動もまた、旅の思い出の大切な一ページになるのだろうと感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。