57.帰宅
次の日は寝不足ではあったけれど、エドワード様の幸せオーラを真っ向から浴びてしまったおかげで、疲れが吹き飛んだ。
現実味があるような、夢の中のような、何とも言えない気持ちだ。
多分、エドワード様が私なんかを選ぶということが信じられないから、夢の中かもしれないという気持ちが抜けないのだ。
その後の道中、馬車の中で私達はたくさんのことを話した。
エドワード様の学園の思い出話や、休日の過ごし方。あとは幼少の頃の思い出。
特に侍女として働いてからの話も、とても盛り上がった。
エドワード様は、本当に使用人の仕事に関心を持っていたのだろう。仕事のことになると、意見を求められることもあった。
とても聞き上手で話し上手なエドワード様のおかげで、心地よいテンポで話すことができた。
エドワード様も同じ気持ちだったら嬉しいな、と思った。
長く感じるかと思った帰りの道のりは、そんなわけであっという間だった。
公爵邸の門を潜ろうかというところで、ふと気づく。
「エドワード様、私このままではよくないのではないのですか?」
「どういうことだ?」
エドワード様が首を傾げる。
「私はまだ侍女です。さすがに2人で馬車を乗っているところを、他の者に見られたくないのですが……」
正式発表はしていない。旦那様とも話していないので、私達だけの口約束の状態だ。
そんな状態で、先に噂が広まってしまえば、面倒なことにしかならない。
「ああ。それは問題ない。出迎えは父上と母上。それに侍女長と執事長くらいだからな」
「そうなんですか? でも遠くから他の者が覗く可能性も……」
「父上の命令だ。さすがにそれを破る不届きものが、ここにいるとは思えない」
「……そうですね。さすがです」
私よりずっと先回りしている。
私のためにも、そういうことをしているのだろう。
いつもは、公爵家の人間が旅行なり視察なりから帰ってくると、盛大に出迎えをしていたはずだから。
「ありがとうございます」
「ふ。これくらい、どうってこそないさ」
そう言って微笑むエドワード様が眩しくて、つい視線をずらしてしまう。
そんな私をエドワード様が見逃すはずもなく。
「おい、なぜ視線を逸らす?」
「エドワード様は、ご自分の破壊力を自覚してください」
「以前は同じようにしていても、こんな反応ではなかったのに?」
それはそうだろう。どうやら自分の変化に気が付いていないらしい。
「同じではありませんよ。エドワード様が変わっているんです」
「どのように?」
「簡単にいうと、周りに花が飛んでいます。……勝手なお願いで申し訳ありませんが、旦那様にそのような状態でお会いすれば、すぐに分かってしまいます。もう少し抑えてください」
「む。それは俺も恥ずかしいな」
私の言葉に納得してくれたらしく、エドワード様は表情を引き締めた。
そのおかげで私も、そわそわしていた気持ちが落ち着いていく。
そしてついに、私達はフォーサイス公爵家へと戻ってきた。
馬車が本邸前の広場に入る。外の様子は、カーテンが閉めてあるので見られないけれど、逆に緊張しなくていい。
馬の嘶きと共に、馬車が停止する。
少しの間を開けて、扉が開く。
エドワード様にエスコートされながら、馬車から降りた。
「……ただいま戻りました」
「良く戻ったな」
「おかえりなさい」
エドワード様が挨拶をすれば、旦那様と奥様が出迎えてくれた。
後ろには侍女長と執事長もいる。
私も深く頭を下げた。
「その様子だとうまくいったのね」
「ええ。無事に捕まえることができました」
さすがステファニー様。私達のことを一瞬で見抜いて見せた。
うん、馬車から降りてすぐ、エドワード様の後ろに行こうとしたらさりげなく止められたもの。
それは気づくか。
「ジェインさん。顔をあげて」
「はい」
ステファニー様に促されて、顔を上げる。
そこで初めて気が付いた。
侍女長と執事長のさらに後ろに、ヴァイオレット、オリーヴ、そしてリリーがいたのだ。
「帰省はいかがだったかしら?」
「多くの出来事がありまして、とても濃い時間をすごしました」
振り返れば正直に言って、いい思い出と言えるのか首を傾げるところなので、無難に答える。
充実していたと嘘を吐くのも途中でボロが出そうだし、ありのままを言える度胸もない。
そんな私の内心を理解していたらしく、ステファニー様は楽しそうにころころと笑った。
「帰ってきたところで申し訳ないが、執務室にきてくれ。これから色々と確認することがあるからな」
「はい」
「承知いたしました」
旦那様の少し硬い声に、体が強張る。
そんな私に、エドワード様はそっと手を滑らせた。
握ることも、本格的なエスコートもまだできない。けれどそれだけで、とても安心するのだから不思議だ。
エドワード様の後ろをついていこうとして、ふとヴァイオレットたちの方をみた。
3人とも、とても嬉しそうな表情をしていた。
視線が合うと、3人そろって親指を立てている。
くすぐったい気持ちになりながら、そっと手を振り返し、今度こそ私は歩き出した。
◇◇◇
「さて、2人とも、ソファに座ってくれ」
「はい」
執務室に入ると、対面のソファに座るように旦那様に促されるが、エドワード様の隣に座っていいのか怖気づいてしまう。
「ジェイン」
「は、はい」
エドワード様に呼ばれ、覚悟を決めて隣に座る。
そういえば旦那様の執務室に入るのは初めてだ。けれど極度の緊張で、正面しか見られない。
マティルダさんが、カートを押して入ってきた。乗っているのはお茶だろう。
私も手伝った方がいいだろうと、腰を上げかけるけれどマティルダさんが目で制してきた。
大人しく腰を下ろす。
旦那様がお茶を一口飲むと、ゆっくり口を開いた。
「さて、エドワード。今回の成果を聞かせてもらおうか」
「はい。アトウッド伯爵領は、復興が進んでいます。土産としていくつか買ってきたので、確認してみてください」
「そうか。後で確認しよう」
一応視察の目的もあったんだな。
「他には?」
「ジェインを射止めることに成功しました」
「ぶふっ」
あまりにストレートな物言いに、飲みかけていたお茶を吹き出してしまう。
なんてことだ。旦那様もステファニー様もいるのに。
マティルダさんがハンカチを差し出してくれる。ありがたいやら恥ずかしいやら。
「ふふっ。エドワード、その様子だととても苦労したみたいね?」
「……ええ、まあ」
エドワード様は、少し気まずそうに答える。
全てを見抜かれてしまい、なんか申し訳なく思ってしまった。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくだされば広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をポチッとお願いします!
いいね、ブクマもとても嬉しいです。
ランキングにも参加してみています!
良かったらポチッとしていってくれるととても励みになります!




