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【第1章完結】 婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華
第1章

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57.帰宅

 次の日は寝不足ではあったけれど、エドワード様の幸せオーラを真っ向から浴びてしまったおかげで、疲れが吹き飛んだ。


 現実味があるような、夢の中のような、何とも言えない気持ちだ。


 多分、エドワード様が私なんかを選ぶということが信じられないから、夢の中かもしれないという気持ちが抜けないのだ。


 その後の道中、馬車の中で私達はたくさんのことを話した。


 エドワード様の学園の思い出話や、休日の過ごし方。あとは幼少の頃の思い出。


 特に侍女として働いてからの話も、とても盛り上がった。


 エドワード様は、本当に使用人の仕事に関心を持っていたのだろう。仕事のことになると、意見を求められることもあった。


 とても聞き上手で話し上手なエドワード様のおかげで、心地よいテンポで話すことができた。


 エドワード様も同じ気持ちだったら嬉しいな、と思った。


 長く感じるかと思った帰りの道のりは、そんなわけであっという間だった。


 公爵邸の門を潜ろうかというところで、ふと気づく。


「エドワード様、私このままではよくないのではないのですか?」

「どういうことだ?」


 エドワード様が首を傾げる。

 

「私はまだ侍女です。さすがに2人で馬車を乗っているところを、他の者に見られたくないのですが……」


 正式発表はしていない。旦那様とも話していないので、私達だけの口約束の状態だ。


 そんな状態で、先に噂が広まってしまえば、面倒なことにしかならない。


「ああ。それは問題ない。出迎えは父上と母上。それに侍女長と執事長くらいだからな」

「そうなんですか? でも遠くから他の者が覗く可能性も……」

「父上の命令だ。さすがにそれを破る不届きものが、ここにいるとは思えない」

「……そうですね。さすがです」


 私よりずっと先回りしている。


 私のためにも、そういうことをしているのだろう。


 いつもは、公爵家の人間が旅行なり視察なりから帰ってくると、盛大に出迎えをしていたはずだから。


「ありがとうございます」

「ふ。これくらい、どうってこそないさ」


 そう言って微笑むエドワード様が眩しくて、つい視線をずらしてしまう。


 そんな私をエドワード様が見逃すはずもなく。


「おい、なぜ視線を逸らす?」

「エドワード様は、ご自分の破壊力を自覚してください」

「以前は同じようにしていても、こんな反応ではなかったのに?」


 それはそうだろう。どうやら自分の変化に気が付いていないらしい。


「同じではありませんよ。エドワード様が変わっているんです」

「どのように?」

「簡単にいうと、周りに花が飛んでいます。……勝手なお願いで申し訳ありませんが、旦那様にそのような状態でお会いすれば、すぐに分かってしまいます。もう少し抑えてください」

「む。それは俺も恥ずかしいな」


 私の言葉に納得してくれたらしく、エドワード様は表情を引き締めた。


 そのおかげで私も、そわそわしていた気持ちが落ち着いていく。


 そしてついに、私達はフォーサイス公爵家へと戻ってきた。


 馬車が本邸前の広場に入る。外の様子は、カーテンが閉めてあるので見られないけれど、逆に緊張しなくていい。


 馬の嘶きと共に、馬車が停止する。


 少しの間を開けて、扉が開く。


 エドワード様にエスコートされながら、馬車から降りた。


「……ただいま戻りました」

「良く戻ったな」

「おかえりなさい」

 

 エドワード様が挨拶をすれば、旦那様と奥様が出迎えてくれた。


 後ろには侍女長と執事長もいる。


 私も深く頭を下げた。


「その様子だとうまくいったのね」

「ええ。無事に捕まえることができました」


 さすがステファニー様。私達のことを一瞬で見抜いて見せた。


 うん、馬車から降りてすぐ、エドワード様の後ろに行こうとしたらさりげなく止められたもの。


 それは気づくか。


「ジェインさん。顔をあげて」

「はい」


 ステファニー様に促されて、顔を上げる。


 そこで初めて気が付いた。


 侍女長と執事長のさらに後ろに、ヴァイオレット、オリーヴ、そしてリリーがいたのだ。


「帰省はいかがだったかしら?」

「多くの出来事がありまして、とても濃い時間をすごしました」


 振り返れば正直に言って、いい思い出と言えるのか首を傾げるところなので、無難に答える。


 充実していたと嘘を吐くのも途中でボロが出そうだし、ありのままを言える度胸もない。


 そんな私の内心を理解していたらしく、ステファニー様は楽しそうにころころと笑った。


「帰ってきたところで申し訳ないが、執務室にきてくれ。これから色(・)々(・)と(・)確認することがあるからな」

「はい」

「承知いたしました」


 旦那様の少し硬い声に、体が強張る。


 そんな私に、エドワード様はそっと手を滑らせた。


 握ることも、本格的なエスコートもまだできない。けれどそれだけで、とても安心するのだから不思議だ。


 エドワード様の後ろをついていこうとして、ふとヴァイオレットたちの方をみた。


 3人とも、とても嬉しそうな表情をしていた。


 視線が合うと、3人そろって親指を立てている。


 くすぐったい気持ちになりながら、そっと手を振り返し、今度こそ私は歩き出した。



 ◇◇◇



「さて、2人とも、ソファに座ってくれ」

「はい」


 執務室に入ると、対面のソファに座るように旦那様に促されるが、エドワード様の隣に座っていいのか怖気づいてしまう。


「ジェイン」

「は、はい」


 エドワード様に呼ばれ、覚悟を決めて隣に座る。


 そういえば旦那様の執務室に入るのは初めてだ。けれど極度の緊張で、正面しか見られない。


 マティルダさんが、カートを押して入ってきた。乗っているのはお茶だろう。


 私も手伝った方がいいだろうと、腰を上げかけるけれどマティルダさんが目で制してきた。


 大人しく腰を下ろす。


 旦那様がお茶を一口飲むと、ゆっくり口を開いた。


「さて、エドワード。今回の成果を聞かせてもらおうか」

「はい。アトウッド伯爵領は、復興が進んでいます。土産としていくつか買ってきたので、確認してみてください」

「そうか。後で確認しよう」


 一応視察の目的もあったんだな。


「他には?」

「ジェインを射止めることに成功しました」

「ぶふっ」


 あまりにストレートな物言いに、飲みかけていたお茶を吹き出してしまう。


 なんてことだ。旦那様もステファニー様もいるのに。


 マティルダさんがハンカチを差し出してくれる。ありがたいやら恥ずかしいやら。


「ふふっ。エドワード、その様子だととても苦労したみたいね?」

「……ええ、まあ」


 エドワード様は、少し気まずそうに答える。


 全てを見抜かれてしまい、なんか申し訳なく思ってしまった。

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