58.覚悟
第1章完結です!
「行く前からジェインに、全くその気が見えなかったからなぁ。少し怪しく見えていた」
今度は旦那様が、揶揄うような声音で言う。
「……父上も分かっていたんですか」
「当然だ。後はステファニーから、ジェインの様子を聞いていたからな。きっと、苦戦するだろうと思っていた」
やめてください。新手の公開処刑ですか。
私がとんでもなく鈍い人間みたいじゃないですか。
いや、そう思ってもらえるように行動したので当たり前だ。自業自得だった。
「ふふ、まあまあ。揶揄うのはそのくらいにしておきなさいな。話が進まないわ」
「そうだな。それで? エドワード、ジェインを射止めてどうしたいんだ?」
ステファニー様が助け舟を出してくれたけれど、もうどうなっても気まずいのは変わらない。
けれどエドワード様は、真剣な表情で宣言した。
「私、エドワード・フォーサイスとジェイン・アトウッドの婚約を、フォーサイス公爵家当主に認めていただきたい」
凛とした張りのある声。エドワード様の本気を何度も、体感する。
とても申し訳ないけれど、いよいよあとには引けなくなったという気持ちが強い。
もちろん、今から逃げるなんてことはしないけれど、それでも本当に私でいいのかという思いも捨てきれないのだ。
「私は昔から、エドワードの結婚相手はよほど問題のある人物でなければ、反対しないと決めていた。……この国では様々な障害があるだろう。それに立ち向かう覚悟はあるか?」
やはり私の年齢がネックなのだ。旦那様の表情も険しい。
手が冷たくなっていく。ぎゅ、とバレない程度にこぶしを握りしめる。
「ええ。もちろんです。俺がジェインを、あらゆる悪意から守ります」
……エドワード様は強いなぁ。
きっと私より、祝福される人なんてたくさんいるはずなのに。
避けられるであろう苦労を、それでも受けると決めているのだ。
……私も、それに寄り掛かってばかりではいけない。
エドワード様の言葉に、旦那様が表情を柔らかくして私を見た。
「ジェイン、いや、今はジェイン嬢と呼ぼう。其方のことは、よく知っている。ステファニーや、マティルダからの評判もいい。ただ、心の強さ。それが其方には少しばかり足りないとも考えている」
話している内容は、決して易しいものではない。けれど、その表情は私を安心させるかのように、とても暖かい。
「自己の評価の低さ。それはこれからの苦難を考えれば、必ずジェイン嬢を苦しめるだろう。自己の軸を、何にも揺らがない軸を作りなさい」
「は、はい」
激励されている、と気が付いた。
先が見えているからこそ、私がしっかり立てるようにしてくださっている。
ああ。エドワード様が素晴らしいのは、旦那様のこの姿を見ているからなのか。
私は立ち上がり、旦那様に向かってカーテシーをする。
少し体幹がブレそうになるが、気合をいれて耐えた。
「わたくし、ジェイン・アトウッドは、エドワード様の優しさに驕ることなく、支えになれるよう、日々精進します。……どんな世論も、実力で納得させられるように」
本当にできるだろうか。いや、言葉にしたからには、やってみせる。
この素晴らしい方々に、見初められた恩に必ず応えてみせる。
「……ふ。その気概があれば、変われるだろう。期待している」
旦那様にとりあえず及第点を貰えたらしい。ホッと軽く息を吐いた。
「ねえ、ジェインさん。やっぱりエドワードは、なかなかの優良物件だったでしょう? 良かったわぁ。ジェインさんのお眼鏡に適って」
「奥様……あの時は、まさか本気でおっしゃっているとは思わず、失礼いたしました」
「うふふ。そうよね、エドワードはまだ成人したばかりだもの。もっと男前にならないと、そういう目で見られなかったわよね」
奥様、すっごく楽しそうだな。
「いえ、エドワード様の魅力がなかったわけでは……」
「ステファニー、揶揄うのは後にするんじゃなかったのか?」
旦那様が諫めるように言う。
「あら、失礼。つい、ね」
「おほん。ではフォーサイス公爵家当主として、2人の婚約を認めよう。ただ、一度はアトウッド伯爵とも顔を合わせなくてはな。正式に婚約を結ぶのはその後だ」
「はい」
お父様達にも、たくさん迷惑をかけてしまった。ちゃんとお礼と謝罪をしないと。
「まあ。今日はそんなところだ。長旅で疲れただろう。今日はもう休みなさい」
「はい。未熟者ですが、これからもよろしくお願いいたします」
退出の挨拶もして、執務室から出て行く。
廊下に出ると、マティルダさんに呼び止められた。
「ジェイン、悪いけれど、侍女長室へ来てくれるかしら? 待ってる人たちがいるから」
十中八九ヴァイオレットたちだろう。
エドワード様に目配せをすると、頷いてくれる。
「はい。分かりました」
そのままマティルダさんに連れられて、侍女長室へ向かう。
マティルダさんが扉をノックして開けると、私が先に入るように促された。
部屋に入ると、ヴァオイレットとオリーヴが興奮したように、私へ詰め寄ってくる。
「おかえり、ジェイン。そしておめでとう!」
「あ、ありがとう。情報が早いね」
オリーヴの勢いが特に凄くて、少し引きながら答える。
「私達は特別に教えてもらっていたからね。というより、ようやくといった感じよ」
「ようやく?」
「そりゃあ、明らかに、エドワード様がジェインにアプローチしてるんだなとは分かってたからね」
ヴァイオレットの言葉に、周りには筒抜けだったのだと改めて知った。
そして先ほどから気になっていることは、リリーが2人の後ろで何も話さずに立っていることだ。
私の視線で、2人は気が付いたらしい。そっとリリーの背中を押した。
リリーが私の前まで歩いてくる。
「あの、リリー……」
色々なことを思い出して、気まずい。リリーは今回のことを、どう思っているんだろう。
手のひらに汗をかきながら、口を開こうとしたその時。
「ジェインさんっ」
「わあっ!」
急にリリーが私に抱き着いてきた。
そして泣きながら、思いの丈をぶつけるように叫んだ。
「良かったですっ! ジェインさんが、自分の気持ちに気づいて良かったですぅ! おめでとうございます!」
まっすぐな言葉に、私も視界が潤んでいく。
「うん。ごめんね、ありがとう。リリーの言う通りだったよ。ごめんね」
「良いんですっ。私は嬉しいんです!」
2人で泣いていると、ヴァイオレットとオリーヴも目を拭っている。
「はあ。本当に良かったわ」
「そうだねぇ。ついにうちらかの中から、結婚するやつが……めでたいね。……ようし! 私達も混ざるよ!」
「きゃ! ちょっとオリーヴ!」
2人も私達に抱き着いてくる。
四方八方から抱きしめられて、とても苦しい。
けれど、それと同時に、とても大きな幸福感に包まれて。
侍女長室は、笑いと泣き声に包まれていた。
これはスタートラインに過ぎない。
これから先起こるであろう多くのイベントに、私はどうしていくのか、私にも分からない。
それでも、こうして私の幸せを祝ってくれる人たちのためにも、頑張ろうと決意するのであった。
第2章はしばしお時間をください!
今後は婚約者となった2人がどうなるのか、楽しみにして頂ければと思います!
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