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【第1章完結】 婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華
第1章

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54.用意周到

 そんな風に言われて、ハイ、そうです。なんて、誰が答えられるだろう。


「……エドワード様、意地悪が過ぎます」


 そんな思いから、私は思わず恨みがましい声を上げてしまった。

 

「ははっ。ジェインに意地悪されたからな。まあ、ちょっとした仕返しも含んでいる」


 意地悪したかな⁉︎ と思ったけれど、ジュリアとくっつけようとしたことを言っているのだろう。


「意地悪だなんて……私より、ジュリアの方がよっぽど素敵な子ですよ。……想い人がいるのは想定外だったんです」

 

 言い訳にしか聞こえないだろうけれど、意地悪したくてしたわけではない。

  

「ああ。ジュリア嬢に発破を掛けられた。俺は思いあがっていたんだ。ジェインの態度も、好感触だったから余計に」


 尊敬しているからこそ、正直に言ったに過ぎない。けれどもう少し抑えるべきだったかと、今になって思う。


 随分、思わせぶりな行動をとってしまった。


 あの頃は、異性としては見ていなかった……は言いすぎか。


 けれど私なんかが、エドワード様に恋愛感情を持たれるなんて、夢にも思わなかったのだ。


「まあ意地が悪いのは許してくれ。こうでもしないと、話が止まってしまうからな」

「……何度言われても、私は——」

「ジェインはやはり、自己を卑下するきらいがあるな」


 卑下もなにも、事実だろう。


 私はそもそも年齢以外にも、エドワード様に相応しくないことが多すぎる。


「エドワード様、先ほどは年齢の問題をお伝えしました。けれどそれだけではないのです。私はもう貴族としてのマナーがありません。そんな者が由緒正しき、フォーサイス公爵家に嫁ぐなど、言語道断です」

「ないなんてこと、あり得ないだろう」


 私の言葉に、エドワード様は力強く反論する。


「今まで学んだものが、きれいさっぱり無くなるなんてあり得ないことだ。確かに忘(・)れ(・)る(・)ことはあるだろうが、学びなおせば思い出せるはずだ」

「!」


 エドワード様の言葉は、私にとって盲点だった。

 

「俺たち貴族のマナーは、一朝一夕に身に付くものではない。何年もかけて習得したものが、そんな簡単になくなるはずがないんだ」

「で、ですが」

「頭が覚えてなくとも、体が覚えている。そうじゃないか?」


 それは説得力のある言葉だった。土台ができているのなら、確かにそうだろう。


 けれどそれでも駄目なのだ。


 ぐ、と詰まりそうになりながら、最後の切り札を出す。


「そ、それ以前に、エドワード様はフォーサイス公爵家の跡取りでございます。貴族の結婚は、家への影響が何よりも重視されるのではないですか? 旦那様や奥様が、お許しにならないでしょう」


 現状を考えれば、アトウッド伯爵家と縁付くメリットがあまりにも少ない。


 フォーサイス公爵家からしたら、デメリットの方が大きいだろう。


 ジュリアが言っていたのは、こういうことか。と頭の隅で思った。


 相手にとって迷惑となるのであれば、歩みを止めるのは仕方のないことだろう。


 そういう思いも抱きつつも、このことはあまり言いたくなかったなとも思う。


 だって、これを言うということは、お父様達を貶めているのと変わらないから。


 けれど、この切り札も、全くエドワード様には刺さらなかったのだ。


「ふ。ジェイン、君は勘違いをしている」

「はい?」


 何故か余裕たっぷりなエドワード様。

 

「もちろん、父上からも母上からも、俺は応援されているぞ」

「……はあっ⁉」


 思わず大声をあげてしまう。次いで自分の失態に気づき、顔から血の気が引いた。


 エドワード様にこんな態度をとってしまうなんて。


「あ、申し訳ございません。わたし……」

「気にしていない。驚くのも無理はないかもしれないが、俺も個人の想いだけで暴走しているわけではないんだ。ちゃんと当主の許可はとって行動している。前に母上とお茶をしただろう?」

 

 そうだ。帰省前に、クレメンスを交えてお茶をした。確かに、ステファニー様はうちの息子はどうだと言っていた。


 言っていたけれど……!!


「あ、あれを真に受ける人間はいないと思います……!」

「……いや、公爵夫人だぞ? 冗談でも言ってはいけないことは言わない。それで自分が不利になる可能性もあるのだからな」

「う、うう」


 もう頭を抱えるしかない。エドワード様の言い分はもっともだ。ステファニー様が、そんな軽率な行動をとるはずがない。


 あの時は必死に否定してしまったが、自分を守ろうとするあまり、私は周りをも貶めているのではないだろうか。


 そこまで考えてから、もしかしてこれって、完全に外堀を埋められているのではないだろうかと思った。


 え? エドワード様、そこまで本気で私を……


「父上も母上も、ジェインは全く問題ないと言っている。むしろ歓迎するとな。それに未婚の男女が2人きりで旅行なんて、結婚を見据えて許可をするに決まっているだろう? お互いの醜聞のためにも、軽率なことはしない。……まあ、思い返せばジェインにはそう取られていなかったな」

「あう……」


 つまり、ここまでの抵抗は全く無意味と。


 なぜエドワード様は、そこまでして私を欲しがるのだろう。


「……そんなわけで、あとはジェインが頷くだけだ」

「……」

「と強引に行きたいところなんだが」

「?」


 エドワード様の言葉に、顔を上げる。


 少し眉尻を下げた、寂しさを感じる表情で言った。


「ジェインが俺を恋愛的な意味で好きではないのなら、これ以上無理強いはしない。無論このまま、侍女を続けてもらって構わない。昇進しないという忖度もないから安心してくれ。……あとは、ジェイン。君の判断に委ねるよ」

「……」


 まさかの言葉に、私は頭が真っ白になってしまった。

 

 まるで、急に宙に放り出されてしまったかのようだ。


 思考が鈍ってしまい、全く考えがまとまらない。


 おかしい。だって私は、エドワード様のことをさっきまで拒んでいたんだ。


 ならここで拒めばいい。


 そうすれば今度こそ、エドワード様は私を諦めてくれる。


 そう、分かっているのに、声が出ない。


 「わたし、は……」


 ああ。こんな形で知りたくなんてなかった。


 答えられない、拒否できない。


 それが何を意味するかなんて、火を見るより明らかだった。

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