51.告白
意外と話し出せば、スムーズに会話ができた。
けれどお互い核心的なことには触れない。機会を窺っているのは、双方同じことなのだろう。
「それにしても、アトウッド伯爵領は思っていたより復興が早いな。皆の努力のおかげだろう」
「はい。ここ最近、軌道に乗ってきたのでしょう。以前帰省した時より、ずっと良くなっていて私も驚きました」
本当に皆、頑張っているんだな。雰囲気も変わっていたのは、私としても嬉しかった。
「これなら皇帝に献上してもよさそうだが」
「父も最終的な目標はそうでしょう。しかし、やはりまだ粗がありますので、まだ先かと」
「そうなのか」
一度壊れたものは、簡単には戻らない。
特に成長に時間のかかる木材を扱う林業という点では、他より時間がかかるだろう。
だからこそお父様たちは、小物系に力を入れているのだろう。
家具を安定して作れるほどではないが、それをずっと待っていては、先に人間が倒れてしまう。
少しでも使えるものは余すことなく使うことで、復興の兆しが見えてきたのだ。
試作品という名目で渡されたブローチも、その一環で作ったのだろう。
花びら一枚一枚が繊細に表現されていて、とても美しい。
着色をすれば、本物と見間違うほどの出来だろう。
けれど木材をそのまま使った状態でも、それはそれで美しい。
木目の模様は一つとして同じものはないので、オンリーワンのものとして売り出せば、一定のファンがつくかもしれない。
そんな風に物思いに耽って、油断したのが悪かったのだろうか。
「ジェイン。大事な話があるんだ」
「なんでしょう」
「俺と婚約してほしい」
どこまでもまっすぐ、真摯に伝えられた求婚に、頭を鈍器で殴れらたような衝撃を受けた。
「……え」
何もかもすっ飛ばした突然の求婚に、頭が真っ白になる。
こういう話になるのは覚悟していたはずだったのに。
ジュリアやお兄様の話からも、元々私にその話をするつもりではあったのだろうと。
けれどこんな直球で来るとは、思ってもいなかった。
なにを言えばいいのか、あらかじめ用意していた言葉は頭から全て吹き飛び、ただただ口をパクパクさせることしかできない。
「ジェイン。俺はジェインが好きだ。ジュリア嬢でも、他の令嬢でもなく、ジェイン・アトウッドを愛している」
「は……」
続いて放たれる連撃に、最早なすすべがない。
急激に体温があがり、汗がにじむ。顔が燃えるように熱い。
口から何かが飛び出そうな感覚の中、何とかエドワード様を止めたいと思う。
そうじゃないと、私が私でなくなるような感じがしたからだ。
「お、落ち着きましょう? 突然どうして……」
「突然に感じるかもしれないが、俺は突然ではない。驚かせてしまってすまないが、ジェインにはちゃんと言葉にしないと伝わらないと思い知ったんだ」
それはそうだ。私が思い込むためにも、敢えて分からないように振る舞ったのだから。
逃避を繰り返した私が招いた結果とは言え、このままでは持たない。
「……そ、そもそも私とエドワード様は、まだお互いのことを知らないのではありませんか。なのに、あ、あいしてるなんて……」
恋愛経験がない私が断言できることではないけれど、愛ってもっと、長い時間をかけて育むものではないだろうか。
好きは一目惚れという言葉があるように、短時間でも育まれるけれど愛は違うと思っていた。
私の言葉に、エドワード様は頷く。自分の考えが間違いではないのだと知り、束の間安心した。
けれどエドワード様は、さらに大きな爆弾を投下してきた。
「そうだな。だが俺はジェインを見てきた。具体的には1年くらいか」
「へ? え? だって話すようになったのは、ここ数か月では……」
私の認識としては、エドワード様の成人祝いのパーティーのあとからだ。
それまでは個別で話したことはないし、そもそも目が合ったとかそんなこともない……はずだ。
「ああ。話すようになったのはな。でも俺は1年ほど前からジェインが気になっていたんだ」
「な、ん」
下っ端の侍女である私を1年前から?
全く、何もかも分からなかった。
だって私は雑用が基本だし、目立つような容姿でもない。
なのになぜ。
そんな疑問は、口から出ていたらしい。
「ジェインが自分で思っているより、ジェインは美しいぞ。もっと自信をもっていい」
「いや、あの」
今度は口説かれ始めて、私の頭はオーバーヒート寸前だ。
「俺だって気のない令嬢に、わざわざ時間は作らない。言っただろう? 下心があると。ジェインにも好意を持ってほしいと思ったから、行動していたんだ」
エドワード様からの容赦ない連撃に、心臓が壊れそうなほど暴れ回っている。
こんなストレートに告白されるなんて、夢にも思っていなかったから、本当にどうすればいいのか分からない。
もしかしなくても、ジュリアが喝を入れた結果こうなってしまったのだろうか。
確かに私から逃げ道をなくすという作戦ならば、大成功ではあるのだろう。
けれど私にとっては、耐えられることではなかった。
ついに思考だけでなく、視界にまでもやがかかったように見える。
あれ、これやばいのでは?
そう思ったけれど、遠ざかる意識にどうすることも出来ず。
最後に見えたのは、焦った様子のエドワード様だった。
◇◇◇
これは夢だ。
暗い意識の中で、夢であることは明確に理解できた。
私、何していたんだっけ?
直前の記憶が全くない。
体はふわふわ浮いているようだ。
その下の方で、嫌な記憶が再現されている。
あれは思い出したくもない、アトウッド伯爵家に多額の援助をする代わりに、私に結婚を迫ってきた男だ。
記憶の奥の方に押し込んでおいた、あの下卑た笑い声が聞こえる。
次いで聞こえてきた声に、私は全身に鳥肌が立つのを感じた。
おかしいな。夢なのに、鳥肌が立つなんて。
いや、夢ならこれからのことをわざわざ見る必要なんてない。
お願い、目を覚まして。
これ以上見たくないの。
いや……いやだっ……!!
そう必死に念じるけれど、目の前の情景は止まることなく、進んでいく。
私が望まない方へと。




