50.お土産
「すまない。待たせたな」
「エドワード様、まだ約束の時間までありますから問題ありません」
エドワード様の荷物は、行きよりもずっと増えていた。
「随分と沢山、我が領の物を買っていただいたんですね」
「ああ。家族と土産を買わないとうるさい奴もいるからな」
いつ買ったんだろう。もしかしてジュリアと出かけた時かな。
あの日外出してる時間も長かったし、お土産を一緒に買っていたのかも——
「あっ!」
「どうした?」
「同僚への土産を買い忘れてました!」
すっかり忘れていた。今回は小物なんかをオリーヴたちに買えたらな、なんて考えていたけれど途中、いやほぼ最初から忘れていた。
けれどまだ店が開く時間ではないし、待っていたら遅くなってしまう。
やってしまったと顔を青くする私に、エドワード様は笑った。
「ジェイン、大丈夫だ。俺が使用人にもお土産を買ってある」
「いつの間に! ……いえ、でも私が用意したかったのに……」
私だけ滞在を一日延ばす訳にもいかない。
お土産を買い忘れたことで、責めるような人たちではないと分かっているけれど、それはそれだ。
これは帰ったら謝罪するしかないか、と諦めようとしたその時。
「ジェイン、実は試作品がいくつかここにあるんだ。良ければこれをお土産にするといい」
お父様がいつの間に手配したのか、いくつか小物を用意してくれていた。
それは木でできたブローチだ。
一つ一つ丁寧に作られた、薔薇を模ったブローチだった。
「お父様、良いの?」
「ああ。ついでに宣伝してきてくれればいい」
「そういうことなら、遠慮なくもらうね」
そう言って3人分のブローチを手に取る。
バッグにしまうと、お母様がもう一つ差し出した。
「? お母様?」
「貴方の分もあった方がいいわ。特別感が出るでしょう」
「……確かにそうだね。ありがとう」
もう一つも受け取る。
まさか一気にお土産問題が解決するなんて、本当に良かった。
これで何の憂いもなく、帰ることができる。
いや何の憂いもないは言い過ぎた。きっと馬車のなかでエドワード様と話をしないといけない。
数時間の旅路でもないのだから、話さないのもおかしな話だ。
今はとりあえずおいておこう。
「とても楽しい日々でした。父上にも、アトウッド伯爵領の良さを伝えておきます」
「そういっていただければ、望外の喜びでございます」
「良ければ、また来てくださいな。歓迎しますわ」
「ありがとうございます」
エドワード様とお父様、お母様が言葉を交わす。
一瞬、本当に楽しめたのかなと思ったけれど、元凶の私は何も口を出せないのでしまっておく。
「ジェイン」
「はい」
お父様に声を掛けられる。
「私達は、どんな時でもお前の味方だ。お前が選んだ道を、応援する」
「……はい」
きっと多くの含みがあるのだろう。
お父様達が考える幸せが、私には当てはまらないとも知っているのだ。
「後悔しないのは難しいわ。でもね、ジェイン、選んだ道を後悔しないように努力するのが大切よ」
お母様の言葉は優しくありながらも、どこか厳しさを滲ませたようなものだった。
「ジェインがどんな道を選んでも、わたくしたちは貴女の心の帰る場所であり続けるわ」
「……ありがとうございます」
最終的に決めるのは、私自身。それでも、私のことを思ってくれているということなのだろう。
お母様達が今回のことに対してどう考えているのか、真意は分からない。
私がもっと成長すれば分かるのかもしれない。
「それでは、いってきます」
「道中、気を付けて」
エドワード様に自然にエスコートされながら、馬車に乗り込む。
「お姉様、頑張ってね」
「うん、ジュリアもね。今度はウォード伯爵子息にも、お会いできたらいいな」
「……私も頑張るね」
ジュリアは最後に、エドワード様に視線を送る。エドワード様は一瞬気まずげな表情を浮かべたけれど、ゆっくり頷いた。
そして馬車が動き出したのだった。
◇◇◇
馬車が動き出して早数時間。
私とエドワード様は、まだ会話をひとつもしていなかった。
お互いに何か話そうとしているのに、なにも言葉にならないのがより空気を重くさせた。
けれどここは私から話しかけるべきだろう。
昨日のこともあるし、年上としてリードしないと。
でも昨日のことに触れれば、否応なしに話が進むだろう。
情けない話、そこにたどり着く勇気がまだ足りなかった。
そうなると何から話せばいいのか分からない。
本当に、私は情けない人間だ。
いや、自己嫌悪している場合ではない。別の切り口でいいから話さないと。
何か話……と考えた結果。
「そ、そういえばエドワード様。お土産は何を買われたのですか?」
お土産の話をすることにした。
「大体はお菓子だ。さすがに残る物となると嵩張るからな」
「そうなのですね。……そんなにたくさん買ったのですか?」
「ああ。使用人分も買おうとしたら、結構な量になってな」
確かにフォーサイス公爵家の使用人の人数は多い。侍女だけでなく、専属の庭の剪定士やシェフ、護衛も考えれば当然だ。
「全員分となればとても多くなりますね」
そういえば荷馬車も行きよりずっと荷物が増えていた。
確かに残る物だと大変そうだ。
「きっと皆さん喜びますね。エドワード様が選んだお土産を頂けるなんて」
私が用意した分はヴァイオレット、オリーヴ、リリーの3人分だけ。
侍女たちの間でお土産は用意しなくていいことになっている。用意するにしても、特に親しい人たちくらいだ。
何せ全員分だとかなりの量だ。そこまで金銭的に余裕がある人も多くない。
だから気を遣わなくていいように、あらかじめルールとして設定されている。
私としても、それはありがたいことだった。とはいえ今回は用意したかったのに、忘れていたのだけれど。
それはさておき、まさかエドワード様直々にお土産を貰えるなんて、皆狂喜乱舞するに違いない。
エドワード様を崇拝するものもいるだろう。
それを自然とやってのけるのだから、やはりエドワード様はすごい方だと思う。
「俺が快適に過ごせるのは、皆のおかげだからな。このくらいはしないとバチが当たる」
もうその感謝だけで、我々使用人は頑張れます。
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