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【第1章完結】 婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華
第1章

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50.お土産

「すまない。待たせたな」

「エドワード様、まだ約束の時間までありますから問題ありません」


 エドワード様の荷物は、行きよりもずっと増えていた。


「随分と沢山、我が領の物を買っていただいたんですね」

「ああ。家族と土産を買わないとうるさい奴もいるからな」


 いつ買ったんだろう。もしかしてジュリアと出かけた時かな。


 あの日外出してる時間も長かったし、お土産を一緒に買っていたのかも——


「あっ!」

「どうした?」

「同僚への土産を買い忘れてました!」


 すっかり忘れていた。今回は小物なんかをオリーヴたちに買えたらな、なんて考えていたけれど途中、いやほぼ最初から忘れていた。


 けれどまだ店が開く時間ではないし、待っていたら遅くなってしまう。


 やってしまったと顔を青くする私に、エドワード様は笑った。


「ジェイン、大丈夫だ。俺が使用人にもお土産を買ってある」

「いつの間に! ……いえ、でも私が用意したかったのに……」


 私だけ滞在を一日延ばす訳にもいかない。


 お土産を買い忘れたことで、責めるような人たちではないと分かっているけれど、それはそれだ。


 これは帰ったら謝罪するしかないか、と諦めようとしたその時。


「ジェイン、実は試作品がいくつかここにあるんだ。良ければこれをお土産にするといい」


 お父様がいつの間に手配したのか、いくつか小物を用意してくれていた。


 それは木でできたブローチだ。


 一つ一つ丁寧に作られた、薔薇を模ったブローチだった。


「お父様、良いの?」

「ああ。ついでに宣伝してきてくれればいい」

「そういうことなら、遠慮なくもらうね」


 そう言って3人分のブローチを手に取る。


 バッグにしまうと、お母様がもう一つ差し出した。


「? お母様?」

「貴方の分もあった方がいいわ。特別感が出るでしょう」

「……確かにそうだね。ありがとう」


 もう一つも受け取る。


 まさか一気にお土産問題が解決するなんて、本当に良かった。


 これで何の憂いもなく、帰ることができる。


 いや何の憂いもないは言い過ぎた。きっと馬車のなかでエドワード様と話をしないといけない。


 数時間の旅路でもないのだから、話さないのもおかしな話だ。


 今はとりあえずおいておこう。


「とても楽しい日々でした。父上にも、アトウッド伯爵領の良さを伝えておきます」

「そういっていただければ、望外の喜びでございます」

「良ければ、また来てくださいな。歓迎しますわ」

「ありがとうございます」


 エドワード様とお父様、お母様が言葉を交わす。


 一瞬、本当に楽しめたのかなと思ったけれど、元凶の私は何も口を出せないのでしまっておく。


「ジェイン」

「はい」


 お父様に声を掛けられる。


「私達は、どんな時でもお前の味方だ。お前が選んだ道を、応援する」

「……はい」


 きっと多くの含みがあるのだろう。


 お父様達が考える幸せが、私には当てはまらないとも知っているのだ。

 

「後悔しないのは難しいわ。でもね、ジェイン、選んだ道を後悔しないように努力するのが大切よ」


 お母様の言葉は優しくありながらも、どこか厳しさを滲ませたようなものだった。


「ジェインがどんな道を選んでも、わたくしたちは貴女の心の帰る場所であり続けるわ」

「……ありがとうございます」


 最終的に決めるのは、私自身。それでも、私のことを思ってくれているということなのだろう。


 お母様達が今回のことに対してどう考えているのか、真意は分からない。


 私がもっと成長すれば分かるのかもしれない。


「それでは、いってきます」

「道中、気を付けて」


 エドワード様に自然にエスコートされながら、馬車に乗り込む。


「お姉様、頑張ってね」

「うん、ジュリアもね。今度はウォード伯爵子息にも、お会いできたらいいな」

「……私も頑張るね」


 ジュリアは最後に、エドワード様に視線を送る。エドワード様は一瞬気まずげな表情を浮かべたけれど、ゆっくり頷いた。


 そして馬車が動き出したのだった。



 ◇◇◇

 


 馬車が動き出して早数時間。


 私とエドワード様は、まだ会話をひとつもしていなかった。


 お互いに何か話そうとしているのに、なにも言葉にならないのがより空気を重くさせた。


 けれどここは私から話しかけるべきだろう。


 昨日のこともあるし、年上としてリードしないと。


 でも昨日のことに触れれば、否応なしに話が進むだろう。


 情けない話、そこにたどり着く勇気がまだ足りなかった。


 そうなると何から話せばいいのか分からない。


 本当に、私は情けない人間だ。


 いや、自己嫌悪している場合ではない。別の切り口でいいから話さないと。


 何か話……と考えた結果。


「そ、そういえばエドワード様。お土産は何を買われたのですか?」


 お土産の話をすることにした。


「大体はお菓子だ。さすがに残る物となると嵩張るからな」

「そうなのですね。……そんなにたくさん買ったのですか?」

「ああ。使用人分も買おうとしたら、結構な量になってな」


 確かにフォーサイス公爵家の使用人の人数は多い。侍女だけでなく、専属の庭の剪定士やシェフ、護衛も考えれば当然だ。


「全員分となればとても多くなりますね」


 そういえば荷馬車も行きよりずっと荷物が増えていた。


 確かに残る物だと大変そうだ。


「きっと皆さん喜びますね。エドワード様が選んだお土産を頂けるなんて」


 私が用意した分はヴァイオレット、オリーヴ、リリーの3人分だけ。


 侍女たちの間でお土産は用意しなくていいことになっている。用意するにしても、特に親しい人たちくらいだ。

 

 何せ全員分だとかなりの量だ。そこまで金銭的に余裕がある人も多くない。


 だから気を遣わなくていいように、あらかじめルールとして設定されている。


 私としても、それはありがたいことだった。とはいえ今回は用意したかったのに、忘れていたのだけれど。


 それはさておき、まさかエドワード様直々にお土産を貰えるなんて、皆狂喜乱舞するに違いない。


 エドワード様を崇拝するものもいるだろう。


 それを自然とやってのけるのだから、やはりエドワード様はすごい方だと思う。


「俺が快適に過ごせるのは、皆のおかげだからな。このくらいはしないとバチが当たる」


 もうその感謝だけで、我々使用人は頑張れます。

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