48.2人の相性
「お姉様、仮にもエドワード様の伴侶に私をと思ってくれていたけれど、それはどういう意味なの?」
「意味?」
「私達に対して、どんな思いでそう考えたのかなって。だってそもそも私達のことを知らないと、2人を伴侶になんて思わないでしょ? なにか相性なり性格なりで良さそうなところがあったから、そういう考えになったと思うのだけれど」
「そうだね……」
深くは考えていなかったけれど、確かにジュリアの言う通りだ。
改めて考えるけれど、答えはすんなり答えることができた。
「まずはジュリア。災害が起きてから、特に大変だったと思うけれど、その逆境に負けずに自分にできることを模索していた。それに私や同級生の嫌がらせにも屈することはなく、なおかつ私に対して気遣うことも出来ていた。我慢強さと優しさがあるから、エドワード様と上手くやっていけると思った、かな」
そしてそれは、夫人としても重要な素質だと思う。
「改めてそう言われると恥ずかしいな。色眼鏡も入ってる気がするし。……まあ、それは置いておいて、エドワード様は?」
「エドワード様は公爵家の嫡子だけれど、驕ることなく使用人にも気を遣えるような優しく思いやり溢れる人だね。だからジュリアと相性がいいと思ったんだ」
「そうなんだ」
ジュリアが相槌を打つ。
「下っ端侍女の私にすら慈悲の心を持っているの。私なんて働き始めてようやく、使用人がいることの意味が分かったっていうのに。それを成人したばかりのエドワード様が、しっかり理解されていて私達を見てくれているの」
「……うん」
「生まれも皇族に次ぐ権力を持つ、公爵家の高貴なお方。それにあの美しい容姿でしょ。性格も完璧って、本当何もかも持っているって感じで凄いよ。本人の努力も相当だと思う」
いくら高貴な人と言えど、全く努力していないわけがない。見えないところで、あるいは本人すら努力と思わないような感じで身に着けてきたのだろう。
「これは……お姉様、無自覚なだけじゃないの?」
ここまでべらべら話して、はたと気が付いて弁明を始める。
「とはいえ、さすがに普段から考えていたわけじゃないよ? お互い顔見知りなのかもわからないのに、勧めるのもおかしな話でしょう?」
「確かにね」
とはいえ少しだけ、2人が結ばれたら素敵だなとは思っていたけれど。
「けれどエドワード様がアトウッド伯爵家の家業に興味があると聞いて、もしかしたらジュリアと知り合うきっかけにはなるかなぁ、なんて考えて。そしたら2人が密会してたじゃない? そう思い込んじゃったんだよね」
「なるほどね……」
ジュリアは呆れが混じった笑顔を作っている。
「うう。思い込みが激しかったね。いや、ジュリアも綺麗だし、並んでも違和感ないと思ったし……」
「お姉様、それって身内贔屓ではないの?」
「それを抜きにしても思ったの」
「ふふ。そっか」
ジュリアは本当にきれいな子だ。私の大切な妹。
「お姉様だって綺麗だよ? 地味だなんて言うけれど、それは卑下しすぎだと思うの」
「いやいや、婚活してた時に思い知ったから。ジュリアだったらあの状態でも、より取り見取りだったよ。結局私には、大した魅力はなかったってことだよ」
「……やっぱりそこだよね。あいつら、絶対に許さない」
「うん?」
ぼそりといったジュリアの声はよく聞き取れない。
ジュリアはにっこり微笑んだ。なんだろう。笑顔に影がある気がするのは、気のせいだろうか。
「ところで、お姉様」
「ん?」
「エドワード様とは、普段どんな話をしているの?」
「どんな話……」
話すようになってから、まださほど時間は経っていない。とはいえ多少親密になったと言える程度には、話していると思うけれど……。
あれ? 仕事以外で話したことあったっけ?
世間話もしたけれど、あれはどちらかと言えば社交辞令か。
「仕事の話が多かったなぁ」
「え? そうなの?」
「うん。後は社交辞令とか? そういえばエドワード様の趣味も知らないや」
話したのは侍女の仕事についてと、アトウッド伯爵領のことが主だ。うん、やはり仕事か。
「……」
「エドワード様って私にすら、打算なく褒めてくれるんだよね。でもあの見た目で褒められた日には、侍女全員が気があると勘違いしちゃうよ。年増女のおせっかいかもだけれど、心配なんだよね」
ジュリアは固まっている。うん、やっぱり誰彼構わず褒めたりするのは驚くよね。
「そうなんだ。……ここに帰ってきてからは?」
「……大きくは変わらないかも。あ、でもさすがに誰彼構わず称賛するのはやめたのかな」
情けないところをさらしているからかもしれないが、あの甘い笑顔で褒められていない。
いや、褒められたいとかでは断じてないのだけれど。
歩み寄りはあったけれど、線引きはしっかりしていてそれ以上踏み込まないようにした。
それはエドワード様も同じかもしれない。
「……そっか、なるほどね」
「ジュリア? 私、またやっちゃった?」
ジュリアのオーラに明確に怒気が加わる。とても怖い。
ジュリアがこんなに怒っているの、初めて見たかも。
「ううん。これは……エドワード様が悪い!」
「ええ⁉︎」
なぜそんな結論に至ったか、全く分からない。
とにかくエドワード様が悪いなんてことはないだろう。私がもう少し考えて動けば、変わったかもしれないのだ。
「外堀を埋めるなら、まずはちゃんと言葉にしないと。普通にお姉様が良識ある人間だからこそ、遠回しに言っても伝わらないわ。それでお姉様が年齢とかを気にして引こうとしたなら、外堀を埋めるのはありだけれど遠回しに伝わるのを待つだけなんて、それじゃあ傲慢だわ」
「じゅ、ジュリア?」
突然早口でブツブツ言い始めるジュリア。
初めて見るその姿に、ただただ驚くことしかできない。
「いえ、別に全くの間違いかと言われたらそうではないけれど。けれどお姉様相手には、これじゃあいつまで経っても伝わらないわ。早く軌道修正しないと」
「あ、あの」
止まらないジュリアに、だんだん恐怖が沸き上がってくる。
私の声が震えているのに気が付いたのか、ジュリアは怒気を消して微笑んだ。
「心配しないで、お姉様。大丈夫よ」
「まって、その一言、何も安心できない」
「お姉様が私の幸せを願ってくれるのと同じように、私だってお姉様の幸せを願っているの。それにね」
「っ」
その一言に、止めようとしていた気持ちが萎んでいく。
「お姉様が好きな人と結婚出来たら、私にとってこれ以上ない幸せだもの!」
ジュリアから怒りのオーラが消えて、大輪の花が咲くような満面の笑みを浮かべていた。
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