46.言葉を交わす
再び体調を崩してお休みしていました。
またよろしくお願いします。
お母様の言葉は、以前にもかけられた言葉だ。
そんなに私は、自分を押し込めているとでもいうのだろうか。
「わたくしたちが言えるのは、これだけ。あとは……エドワード様次第かしら」
「母上、でも……」
「ジェフサの気持ちも分かるわ。けれどね、わたくしたちが言える立場ではないけれど、ジェインのことを考えるなら後は本人たち次第よ」
話している間に食事は終わって、食後のティータイムになっていた。
「エドワード様が、何を考えているのか……。私には分からないのです」
私の言葉に、お母様は何を思うのか。顔を見ることができなくて、俯いたままぽろぽろと零す。
ティーカップの中の私は、まるで迷子の幼子のような顔をしていた。
「てっきりジュリアのことを……と思っていたのに、ジュリアは他に慕っている方がいると……。いえ、それを否定したいとかではないのです。ただ……2人を傷つけたことはわかるのに、どうしてそうなったか、分からないのです」
文章が繋がっていない。なにを言いたいのか、自分でも分からない。けれど、零れる言葉は紛れもなく私の本心だ。
「人の気持ちはどんなに相手を理解していても、分からないものよ。だから言葉を交わすのでしょう」
「言葉を……」
「そう。だから、ジェインも話すといいわ。色々なことを。……それもわたくしたちが、縛り付けてしまった弊害ね……」
「そんな……お母様達が悪いわけでは」
私がそう言うと、お母様は首を振った。
「ええ。きっと災害がなければ、こうはならなかったでしょう。文字通り、タイミングが悪かった。けれどわたくしたちはそのタイミングで、してはいけないことをしてしまったのよ。それはわたくしたちの愚かさなの」
「……」
お母様の言う通り、災害がなければ私達は平穏に暮らしていただろう。
「それでも過去には戻れない。わたくしたちに出来るのは、これからを変えることだけ。ジェインはエドワード様に会えてどう思ったのかしら?」
「良かったと思います。きっと、災害がなければ関わることはなかったでしょうから」
そう言うと、お母様は微笑んだ。
「今はそれが分かっているだけでいいわ。その気持ちを忘れないでね」
◇◇◇
食事の後エドワード様と話そうかと悩んだけれど、お母様がやんわり止めた。
「エドワード様も明日には調子を取り戻すでしょう。なにせジェインと帰るのですから。今は、少し一人で考えさせてあげましょう」
その代わり、ジュリアと話すと良いとお父様に言われる。
「エドワード殿は、明日以降も話すタイミングはあるだろう。しかしジュリアはまたしばらく会えなくなる。先に練習がてら、話してくると良い」
「練習ですか?」
「ああ。自分の気持ちに向き合う練習だ」
「分かりました」
お母様とお兄様も頷いているので、アドバイス通りジュリアの部屋へ向かう。
ジュリアの部屋の前に立って、一度大きく深呼吸した。
意を決して扉をノックすると、くぐもったジュリアの声が聞こえた。
「どなたですか?」
「私よ。入っても良いかな?」
声を掛けると、ゆっくりと扉が開く。
出てきたジュリアは、受け入れるように部屋の中へ案内してくれた。
部屋に入れてくれたので、第一関門は突破できただろう。けれど気まずくて、何から話せばいいのか分からない。
先ほどのお父様達も、こんな気持ちだったのだろうか。
「あのね、ジュリア。なにから話せばいいか、分からないんだけど……」
謝らなくては。ジュリアを傷つけてしまったのは事実なのだから。
けれど私が言い終わる前に、ジュリアが言った。
「謝らないでね、お姉様」
「ジュリア……」
「お姉様に、怒ってはいないの。ただ、自分が情けなくて、逃げちゃった……」
その言葉でリリーのことを思い出した。
彼女も私とぎこちなくなった時、自分が情けなかったのが原因だとオリーヴ達は言っていた。
ジュリアも同じなのだろうか。
「前にも似たようなことを言われたことがあるの」
「え?」
「時々話すでしょう? リリーって子なんだけれど」
「あ、私がいながら第2の妹として可愛がっている人だね」
「ふふ。妹のように、だよ。本当の妹はジュリアだけだから」
似ているところも多く感じるけれど、そこは線引きをしっかりしている。
他の同僚もリリーを可愛がっているし、妹扱いしているのは私だけではない。
「リリーさんとも何かあったの?」
「まあ、ね。エドワード様のことで」
「……もしかして、似たようなことって」
「私が怒らせちゃって。同僚は私に怒っているわけではないって言われたんだ。でも間接的にせよ、原因は私だよね」
「……」
ジュリアは何とも言えない顔になる。
「リリーさんは、エドワード様を慕っているんだよね?」
「うん。本人は結ばれるとは思っていないけれど、恋情なのは自覚しているよ……って、リリーのことはまた今度。今はジュリアと話をしに来たの」
つい話が脱線しそうになってしまった。どう話せばいいか分からないままなので、余計に話しやすい方向に流れてしまったともいえる。
「不甲斐ない姉で申し訳ないんだけれど、ジュリアのことを知りたくて」
「私のこと?」
ジュリアは不思議そうに私を見ている。
「うん。私、ジュリアのこと、きちんと理解できていないんだなって。慕っている人がいるなんて知らなかったし」
「それは、お姉様には話してなかったし……」
気まずそうに視線を逸らすジュリア。
「私には話したくないとかなら無理には聞かないんだけれど」
「話したくないとかじゃないの。……お姉様が傷つくかなって思って言えなかった」
「え?」
「お姉様が仕事して、充実した日々を送っているのは知っているわ。けれど、もしかしたら恋愛とか、結婚とかの話題は嫌な気持ちになるかなって……」
まさかの回答に驚いて言葉が出ない。けれど、これは間違いなく私のせいだ。
きっとあのころ、学園で自分でできることを探して行動していたジュリアに嫉妬していたから。
その時の私のジュリアへの態度が、こうさせてしまったんだ。
「本当にごめんね、ジュリア」
そのことを理解してしまえば、謝らずにはいられなかった。
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