44.衝撃の事実
「ジェイン、違うんだ。さっきの話は」
お兄様も声が震えている。
なんだか取り返しのつかないことをしてしまったような言い方だ。
今までの状態からなぜそうなるのか理解できない。
ここはもうハッピーエンドという状態ではないのか。
「お兄様?」
「エドワード殿は……」
そこで言葉を区切ってしまう。何度か口を開いたり閉じたりしているけれど、ジュリアに腕を掴まれてついに口を閉ざした。
「……すまない」
「どうしてお兄様が謝るの?」
「……もっとうまく立ち回ればよかった。そうしたらこうはならなかったのに」
どういうことだろう。
「今回のことは、根本的な原因は俺たちのせいだ。それにジェインも……きっと同じ思いだと思ったから問題ないと思っていたんだ」
「同じ思い……?」
「お兄様、それは……」
ジュリアがお兄様を止めようとしている。
けれどお兄様は、首を振った」
「ジュリア。確かにそうだ。俺たちは余計なことをするなと言われていた。だから静観していたが、こうなるともう、他者の手が必要だと思うんだ」
「……お兄様の言うことも一理あります。けれど、これからを考えるのなら、エドワード様に頑張っていただきたいと、思ってしまいます」
ジュリアの言葉に、お兄様は口を閉ざす。
私だけが蚊帳の外に置かれてしまい、これからどうなるのかさっぱり分からない。
「お姉様」
「は、はい」
急にジュリアが、こちらを向いた。その目は先ほどの弱々しさが消えて、とても力強く輝いている。
「エドワード様とお話してください。とにかく、先入観は捨てて、ありのままの自分を話してください」
「ありのままって……」
とても難しい注文だと思ってしまう。
何度もエドワード様には、情けない姿を見せていることもあって、これ以上そのような姿を見せたくない。
「あと、根本的なことを言っておきますが、私お慕いしている方はいますが、それはエドワード様ではありません」
「……へ!?」
とんでもない爆弾が落とされて、大きな声を出してしまう。
「まだアトウッド伯爵家は安定していないので、婚約話まではしていません。ですが相手も前向きに考えてくれています」
「だ、だれっ!? エドワード様より、素敵な方だということ!?」
「私からすれば、そういうことになりますね。……え? お姉様、それで無自覚なの?」
途中からジュリアが、驚いた表情になる。
けれど私はそれを気にする余裕はなかった。
「だ、だって、帰省した時、ジュリア喜んでたじゃない! 話の内容的に、ジュリアに縁談の申し込みがきたのではないの!?」
「あぁ。もしかしてそこから……」
ジュリアは困ったように眉を寄せている。
黙ったままのお兄様はというと、頭を抱えて座り込んでしまった。
「しまった。そこから勘違いが始まっていたのか……いや、やはりこれは俺たちのせいでもあるだろう」
ぶつぶつ言っているお兄様は今は放っておく。なにせジュリアには、もう一つ確認しないといけないことがあるのだ。
「そ、それに私、聞いたよ! ジュリアとエドワード様が、アッシュリッジ公園に出かけたって。あそこは有名なデートスポットじゃない! なのに違うの!?」
「あの話を聞いていたのに!?」
先ほどまで冷静だったジュリアが、焦ったような声を上げる。
「そうだよ! たまたま聞いちゃったの! 2人で内緒で出かけるところを!」
「だったらなんで、そんな勘違いを!?」
ジュリアの言葉に、私は強めに返す。感情が荒ぶって、お互いヒートアップしつつあるのだ。
「二人とも落ち着くんだ。ジェイン、いったいどこから話を聞いていたんだ?」
うずくまっていたお兄様が、私達の間に入る。
私達より冷静な声に、私も少しだけ冷静さを取り戻した。
「えっと、エドワード様が『ジュリア嬢がついてくれるなら心強いな』っておっしゃって、ジュリアが『そういっていただけて嬉しいです』って言ったところだけど」
「なんでそんな中途半端なの!? 聞くならもっと、初めから聞いて!?」
私の言葉に、今度はジュリアが崩れ落ちた。
「え? えっと、ごめんなさい」
思わず謝るけれど、ジュリアは私の謝罪が耳に入らなかったようだ。
ジュリアはブツブツと呟いている。そのあまりの変容に、何かの危機が訪れているようだった。
「そんなぁ……。この部分だけだったら、本当にお姉様の言う通りじゃない。私がもっと言動に気を付けていたら……」
「じゅ、ジュリア?」
「私、わたしぃ……とんだ泥棒猫もどきだわあああ!」
「ジュリアあああ!?」
その言葉と共に、凄い勢いでジュリアは去ってしまった。
後を追うこともできない、それくらいの勢いだった。
助けを求めるように、お兄様を見るとお兄様もうなだれている。
「……俺、父上と母上にもこのこと話してくるよ。……ジェイン。きっとこれは誰も悪くないんだ。そうだろう?」
「そ、そうかな。私が——」
「そう考えると、きっと全員自分自身を責める。な、そういうことにしよう」
「は、はい」
お兄様の勢いに気圧された。お兄様はきっと、私を責めたいとかではないのだろう。
「……本当はエドワード殿と話してほしいところだが、今話すのは余計にこじれるだろう。だからジェインは部屋にいるといい。俺たちにできることはそのこじれを緩めることだ」
「お兄様……」
「ジェイン、すまな——いや、違うな。いったん俺たちに任せてくれ」
「わかりました……」
きっと謝罪しようとしたことからも、お兄様も自分が悪いと思ってはいるのだろう。
けれどジュリアのため、そして……私のためにも“誰も悪くない”と言っているのだ。
それに気づいて、私は頷くことしかできなかった。
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